「もし、履歴書に自由に項目をつくって自分を紹介できるとしたら、どんなことを書きますか?」
Proff Magazineでは、履歴書の自由なあり方を考えるために、そんな質問をさまざまな分野で活躍する方に投げかけてみることにしました。
今回話を聞いたのは、Peatix Japan株式会社でコミュニティマネージャーをつとめる押切加奈子さん。経理などのバックオフィスの仕事からイベント企画職に転身した押切さんは、自らの履歴書についてどんなことを語るのでしょうか。
「現実的に食べていくこと」を選んだ20代
-普段はどのような仕事をしているのでしょうか?
押切加奈子さん(以下、押切):「Peatix」という、チケット販売や集客が行えるイベント・コミュニティ管理サービスに携わっています。
いろんな分野のイベントで「Peatix」を使ってもらうことはもちろん、私はそれ以上に場をつくって人を集めるという面白い体験を広げていきたいと思っていて。イベント運営の壁にぶつかって悩んでいる主催者さんの相談に乗ったり、積極的に声を掛けて新しい人に会いに行ったりしています。
サービスを通じて出会った人同士でイベントを主催することもあるし、参加者側にまわることもあるので、人と人の縁をつなげることも仕事のうちですね。
-はじめからイベント企画やコミュニティ運営に関わっていたのですか?
押切:いいえ、20代は経理などのバックオフィスの仕事をしていました。私は学生時代、ずっと演劇部の裏方をやっていて、大学では演出や舞台制作について学んでいたので、場づくりには関心があったんですけど。
周りに演劇で食べていけている人がいなかったので、業界を絞らずに「顔が見える誰かの役に立ちたい」という基準で就活していたんです。でも選択肢が多すぎて迷走してしまって。
本当は人の笑顔を見るとか、「あなたと出会ったことで世界が広がった」と言ってもらえることに純粋な喜びを感じるんです。だから舞台をつくるだけじゃなくて、100人規模の飲み会を開いたり、キャンプを計画したり、仲人みたいなことをするのが好きで。
でも学生の頃って、そういう生まれつきの性分と仕事を結びつける方法って分からないじゃないですか。
-自己分析ができても、そこから具体的な職業を考えようとすると難しいですよね。
押切:そうなんですよ。内定ももらっていたし、世の中では寄り道せずに就職するのが当たり前だけど、やりたいことが分からないまま会社に入るのは「流されている」と思ったので、卒業後は一旦全てをリセットするために専門学校に通いました。そこで会計の勉強をして、経理という現実的に食べていきやすい仕事を選んだんです。
職種未経験で、新たなキャリアがスタートした30代
-なぜ数字を扱う仕事から、場づくりに原点回帰しようと思ったのでしょうか?
押切:30歳を目前にして「私の人生これでいいのかな」と考えるようになったのと……あとは、職場での関係性に悩んでいたからです。当時はすごく気落ちしていたけど、友達や家族が助けてくれたおかげで辞める決心がついて。そこでようやく、「自分の生まれつきの性分を活かした仕事をしよう」と思えるようになったんです。
-20代の終わりって、「自分が本当にやりたいこと」を見つめ直す一方で「もう何かを始めるには遅いんじゃないか」と悩みますよね。職種未経験でも進路変更できた、というお話を聞くと勇気が出ます。
押切:ちょうど私が主催したイベントで出会ったカップルが結婚報告をしてくれて、「人が集まる場所をつくるとか、人と人をつなげることに向いているのかも?」と感じていたんですよね。
そんな時、大学の友達が複業研究家の西村創一朗さんの投稿をFacebookでシェアしていて。「BOOK LAB TOKYO」という、渋谷にある本屋兼イベントスペースのコミュニティマネージャーを募集していることを知りました。
初めて聞く言葉だったけど、本は嫌いじゃないし、信頼している子のオススメなら大丈夫だろうなと思って。面接で西村さんに「触れ合う人を笑顔にしたい!」「人と人をつなげられる空間をつくりたい!」という熱意を伝えて、その場で採用してもらいました。
山登りではなく、川下りでキャリアをとらえる
-未知の仕事にチャレンジしてみていかがでしたか?
押切:私は3人兄妹の長女で、昔から家族の中で「あいつに言えば何か面白いことがはじまる」と期待されるような立ち位置だったので。コミュニティ運営とか、何かやりたいと思っている人に伴走しながらイベントを企画する仕事は性に合っているなと、やってみて気づきました。
その後事業譲渡で運営会社が変わって、偶然店長のポストが空いたんですよ。私は書店員の経験が無くて、出版や取次の知識もゼロだったけど、周りの後押しもあっていつの間にか店長になっていました(笑)。
-押切さんのキャリアって、ゴールから逆算する「山登り型」というよりも、目の前にきた仕事やご縁を手がかりに進んでいく「川下り型」なのかもしれないですね。
押切:確かに、何度か転職したしポジションも変わったけど、自分から手を挙げるよりも紹介とか「何か一緒にやりませんか?」と声を掛けてもらって動くことの方が多かったですね。
-Peatixに転職した時も、同じような流れがあったのでしょうか?
押切:ありました。一つのスペースに勤めていると、その場所の魅力を高められる面白さはあるけど、段々と「本に限らずもっと幅広い分野の企画に携わりたい」と考えるようになって。あと、根っからの人間好きなので、多くの人と触れ合いたいなあとも。
それを会社の他部署の先輩に相談したら、「押切さんに合いそうだから」とPeatixの社員と飲みに行く機会をつくってくれたんです。「出会いと体験を広げる」という会社のミッションと自分の方向性が同じだったこともあり、意気投合して転職を決めました。
-無理に職業を絞ろうとせずに、流れに乗りながら自己理解を深めて、キャリアを積んでいく方法もあるのですね。
押切:就活生の頃は「考えを突き詰めて語れるようにならなきゃ」と焦っていたけど、「言語化できないけど何か好き」「面白そうだからやってみたい」っていう感覚ってすごく大切だと思うんですよ。
考えているだけじゃ答えは出ないし、言葉にすべきものと感覚として持っておくべきものの、両方があってもいいというか。
何事もやってみないと分からないし、私の「演劇では食べていけない」という思い込みも、実はそうじゃなかったのかもしれない。学生時代に、もっといろんな人に会って話を聞ける場に足を運べばよかったなと、いまになって思います。
-まさに、人との出会いが可能性を広げてくれる。
押切:本当にそうですね。仕事で悩んでいるタイミングで、一歩踏み出すきっかけや心に響く言葉をくれるのって、いつも周りの人たちなんです。年上の飲み友達や先輩が、経験値をもとに少し先の未来を見せてくれることもある。
「何かあればあの人は力になってくれるだろう」という味方がいろんな年代や業界に居ると心強いし、私自身もそういう人でありたいと思っています。
褒め言葉や反響は、まわりまわって届くほうが面白い
-つながりを重視する押切さんが、履歴書に自由に項目を作れるとしたらどんなことを書きますか?
押切:紹介文を載せたいですね。キャッチコピーをつけてもらうのもよさそう。私はmixi世代だったんですけど、mixiって自己紹介だけじゃなくて、友達からの紹介文が表示されるじゃないですか。
書いてもらえるのももちろん嬉しいし、周りの人の紹介文を読むのも好きだったんですよ。直接相手のことを知るよりも「誰かから見たその人」を知れた方が深まるし、周りの人を通して自分を知ってもらいたいなって。
-直接的な関わりや結びつきを想像していたので、ちょっと意外です。人があいだに入ると、見え方や感じ方が変わるのでしょうか?
押切:私はもともと、誰かや何かを通して他の人を見ているところがあるんです。「この人のオススメなら間違いないな」とか、「BOOK LAB TOKYOという空間が好きな人なら、話が合わないことはないだろうな」とか。
自分の感覚を一番大切にしたうえで、プラスアルファ、信頼できる人や場所のフィルターが掛かると、その感覚が確信に変わるみたいなイメージです。
褒め言葉やイベントの反響なども、まわりまわって届いたほうが面白いなと思ってます。直接声を掛けてもらえるのはもちろんありがたいけど、他の人があいだに入った上で伝わってくる言葉って本物だろうなと。
-履歴書に紹介文を載せられたら、伝え方の幅が広がりそうですね。
押切:いまの履歴書って形式的だから、志望理由なんて似たり寄ったりになるし、採用する側も「この人に任せても大丈夫なのかな?」って思うじゃないですか。
だから友達でも、会社の人でも、大学の先輩でもいいので、信頼できる人にキャラクターや仕事ぶりを説明してもらえる項目があるといいですよね。自分の熱意や目標を書くのはもちろん、そこに応援してくれる人の言葉が上乗せされると、より伝わるものがある気がします。
>押切さんのプロフはこちら
【複業研究家・西村創一朗さんからの紹介文】
押切さんは、いつも「みんなのまんなか」にいる人。人と人、コミュニティとコミュニティをつないで、「押切さんがいなかったら生まれなかったご縁や価値」を毎日のように生み出し続けている人。BOOK LAB TOKYOでコミュニティマネージャーを募集した時、たくさんの応募者の中でも「無人島キャンプ」をやっていた押切さんがダントツで、すぐにオファーを決めたことを覚えています。結果的に人生狂わせちゃってごめんなさい!!!笑
押切さんがいなければいまの僕はいません。これからも仲良くしてください♡
みんなのお姉ちゃんになって、世の中に面白い人を増やしたい
-最後に、押切さんの今後の目標を教えてください。
押切:世の中に面白い人を増やしたいですね。「BOOK LAB TOKYO」で店長をやっていた時に、一般企業を辞めた後に模索している30歳目前の方を、アルバイトとして雇ったんですよ。
彼女は「何か面白いことをやりたいけど、ずっとアルバイトをしようとは思わない」と悩んでいたので、どんな打ち合わせでも隣に座らせて、体感で掴んでもらっていたんです。
そうしたら「押切さんみたいになりたいです」って言ってくれて、その夜はひとり泣きしました(笑)。私が辞めたあとに社員になって、いまでは副店長をやっています。
-30歳って、押切さんが一念発起したタイミングと同じですね。
押切:自分もいろんな人にお世話になったので、それを還元できてすごく嬉しかったですね。人を育てる喜びを実感したし、育てた子たちに「押切さんは面白い人だ」と思い続けてもらえるように、これからも知見を広げて頑張らなきゃなって。
私はずっと“みんなのオカン”を目指してたんですけど、全てを受け止めるのは疲れちゃうので、最近は“みんなのお姉ちゃん”になりたいと思いはじめました。
兄弟の面倒を見る時って基本的に放任だけど、頼ってきたら支えてあげるじゃないですか。そんなふうに、みんなのお姉ちゃんとしてほど良い距離感で伴走しつつ、出会いの数を増やしていけたらいいですね。
押切:あとは「Peatix」をいろんな人に使ってもらいたいですね。東京だけじゃなくて地方でローカルイベントをやるのも面白そうだし、経歴を活かして演劇や出版をはじめとするカルチャー系のイベントもやりたい。
そして50歳になったら公園の近くに場所を持って、スナックのお節介ママみたいなことをするのが夢です。昼は子どもに本の読み聞かせをして、夜は大人がお酒を片手につながれるような空間をつくれたらいいな。
「友達を6人たどっていくと、世界中の誰とでもつながることができる」って言われているけど。信頼できる人たちとつながり合っていけば、安心して物事に取り組めるから、どんな状況でも乗り越えていけると信じています。悩んでいた時期に、いろんな人に手を差し伸べてもらった経験があったからこそ、そういう関係性を増やしていきたいなと思います。