孤独を克服させてくれたのは、理解でも共感でもなかった。ソーシャルバーオーナー・嶋田匠の「ひとりぼっち」と向き合う生き方
#026

孤独を克服させてくれたのは、理解でも共感でもなかった。 ソーシャルバーオーナー・嶋田匠の「ひとりぼっち」と向き合う生き方
ソーシャルバーオーナー嶋田匠

孤独と孤立が、大きな社会問題になっています。

コロナ禍が長期化して人と会う機会が減り、ひとりぼっちであるように感じてしまう–。そんな状態がつづくと、心身がすり減ってしまうということを、多くの方が感じたのではないでしょうか。

そんななか、長年孤独を抱えつづけ、今の活動につなげた人がいます。それが、日替わり店長のソーシャルバー「PORTO」や、個人の「らしさ」を起点にした複業を支援する「コアキナイ」の活動に取り組む、嶋田匠さんです。

嶋田さんは、「ひとりぼっちでなくなるために必要なのは、理解でも共感でもなかった」とこれまでを振り返ります。

嶋田さんが辿り着いた、「ひとりぼっちの乗り越え方」とは?

「ソーシャルバー」と「複業コンサル」に取り組む

-ここが嶋田さんが運営しているソーシャルバー「PORTO」の日本橋店なんですね。

嶋田さん(以下、嶋田):はい。「PORTO」はもともと2018年に有楽町にオープンして、今はここ日本橋と品川の2店舗で営業してます。

-そもそも、「ソーシャルバー」ってなんなのですか?

嶋田:あんまり聞き慣れないですよね。いろいろな人たちが日替わり店長としてカウンターに立って、そんな店長たちをハブとしたコミュニティを形成するバーのことを、僕らは「ソーシャルバー」って呼んでるんです。

「PORTO」には、さまざまなバックグラウンドを持つ方が店長としてカウンターに立ちます。写真は有楽町店のときのもの。(画像:嶋田さん提供)

-おもしろい活動ですね。では、嶋田さんが取り組むもうひとつの活動である「コアキナイ」の方は?

嶋田:”コアキナイ”という言葉には、“小さな商売”という意味での「小商」と、“個性(らしさ)を活かした商い”という意味での「個商」という2つの意味を込めています。そんな、特定少数を相手に自分をそのまま差し出すようなコアキナイを育んでいくプロジェクト。それが「コアキナイ」です。

-なるほど。具体的にはどんなことを?

嶋田:コアキナイを立ち上げるための少人数制のゼミ「コアキナイゼミ」と、コアキナイを育てるコミュニティ、そしてコミュニティの拠点となるシェアハウスという3つの運営からプロジェクトをスタートしました。

その後、シェアハウスの隣にあった6階建てのビルを借りることになりまして。1階をコアキナイをアウトプットするための物販/イベントスペース、2階をコワーキングスペース(夜はPORTO日本橋店)、3階以上をシェアハウスの2拠点目として運営しています。

-いわゆる「複業や起業のコンサル」にありがちな距離をおいた関わり方ではなくて、学びの場から暮らしの場まで提供して、かなり深く関わってるんですね。

 

“よりどころ”と“やくどころ”をつくる

-「PORTO」も「コアキナイ」も、それぞれ異なる取り組みだと思うんですが、なぜそうしたふたつの取り組みを?

嶋田:僕のビジョンとして、「『居場所を感じられる』ことをもっと当たり前にしたい」っていう想いがあるんですよね。

ちょっとむずかしい話になるんですけど、僕は居場所には「“よりどころ”と“やくどころ”」の2種類があると考えていて。

-“よりどころ”と“やくどころ”。

嶋田:はい。“よりどころ”は、無条件に存在が肯定される関係のこと。“やくどころ”は、価値を提供できるから認められる関係のことです。

-たとえば家族は“よりどころ”、会社は“やくどころ”になるようなイメージですか?

嶋田:そうですね。でも、必ずしも誰もにとって家族が“よりどころ”、会社が“やくどころ”になるわけじゃないですよね。なかには、“よりどころ”や“やくどころ”が持てない人もいます。

-わかります。家族と関係がこじれてしまったり、会社に属していなかったりする人もたくさんいますもんね。

嶋田:はい。なので、僕はみんなが“よりどころ”と“やくどころ”を持てるようにしたいんです。

そのために、“よりどころ”だと感じられる場所として、誰でも気軽に訪れることができる「PORTO」を、“やくどころ”だと感じられる場所として、「らしさ」を起点にした仕事づくりを支援する「コアキナイ」をやっているんですよ。

-どちらの活動も、「『居場所を感じられる』ことをもっと当たり前にする」という想いは共通してるんですね。

嶋田:まさにそうなんです。

 

学校でも家でも、居場所がなかった

-どうして嶋田さんのなかで「居場所」が大事になっていったんですか?

嶋田:僕、小さい頃からずっと「なにかをしないとひとりぼっちになってしまう」っていう感覚があったんですよね。

-条件付きでないと誰かから受け入れてもらえない、というような?

嶋田:そうです。保育園のときから、同年代の子が遊んでいても仲間に混ざれなかったんですよ。これは僕は覚えてなくて、ちょっと大きくなってから母親から聞いたんですけど、子どもたちがみんなで遊んでいても、「まだみんなとうまく遊べないや」って言って、母親のところにずっといたらしくて。あと、小学生のときに、みんなから仲間外れにされるようなこともあったんですよね。

-きっと当時はつらかったですよね。

嶋田:つらかったです。僕には妹がいるんですけど、彼女が性格が僕と真逆なんですよ(笑)。すごく天真爛漫で、わがままなんですけど、友達からめちゃくちゃ好かれていて。妹は朝ごはんを食べるのが遅いのに、友達が一緒に学校に行きたいから、妹のことをずーっと外で待っていて。そんな妹と、友達がなかなかできない自分を比較しちゃって。

-自分は仲間外れにされているのに、妹はめちゃくちゃ友達から好かれている…そのギャップはこたえますね。

嶋田:そうなんですよね。でも、「兄だから」っていう変なプライドがあったから、学校で仲間外れにされていることを家で言えなかったんです。

そうするうちにだんだんと、学校でも家でも居場所がないような感覚になっちゃって。それ以来、「僕は他の人と違って、ちゃんと努力をしないと人の輪の中に入れないんだ」みたいな感覚はずっとありました。

 

居場所がないと、人は生を手放してしまうこともある

嶋田:そんな感覚からか、僕なりの「人の輪の中にいるための処世術」が自然と編み出されていきました。

-人の輪の中にいるための処世術?

嶋田:それが、「その場のイニシアチブをとること」だったんです。たとえば、朝早く学校に行って、ボールを自分のクラスで使うために確保しておく。そうすると休み時間に、クラスの遊びの中心にいられるじゃないですか。

-ああ、たしかに。

嶋田:あとは学級委員長になるとか。そうやって、なにかその場のイニシアチブをとれるような役割を確保することによって、人との関係をつくるようになっていました。ただ、社会人になってからまた居場所がなくなるような経験をしてしまって。

-どんなことがあったんですか?

嶋田:新卒で配属された部署が営業部だったんですけど、僕、めちゃくちゃ仕事ができなかったんですよね。で、なんとか挽回するために休日もずっと働いていたら、プライベートで人と会う時間もなくなってきて。会社に行っても居場所がないし、プライベートでも居場所がない…みたいな状態になっちゃったんですね。

-また居場所がなくなってしまったわけですね…。

嶋田:それである日、朝起きたら動悸が止まらなくなって。しかも、上司と会うと吐き気がしてしまうようになったんです。「これはさすがにやばいな」と思って、一旦気持ちを仕事から離したいなと思うようになりました。

-気持ちを仕事から離すというのは、どうやって?

嶋田:実は僕、大学生の時に「無料相談所」っていう取り組みをやってたんですよ。原宿のキャットストリートで、毎週日曜日の昼前から夕方まで、声をかけてくれる人の相談にのる、っていう。トータル1000人以上は相談にのってきたんじゃないかな。

その「無料相談所」を、もう一度やってみたんです。そしたら、学生時代の友人とか、以前「無料相談屋」で知り合った人たちが会いに来てくれたんですよね。それが嬉しくて。「あ、僕にはちゃんと居場所があるんだな」と思えるようになって、それからは会社の仕事にも向き合えるようになっていったんです。

-“よりどころ”と“やくどころ”を見出したわけですね。そのときの経験は、今の活動にもつながっていそうな気がします。

嶋田:そうですね。僕の場合、「無料相談所」っていう活動や、それによってできた関係があったから、なんとか苦しい時期を乗り越えることができました。

だけど、そういった居場所がない人は本当にしんどいだろうなと。居場所がない状態が2,3年続いたら、人って生きてくことを手放す選択をできちゃうんだろうな、って思ったんですよ。

-嶋田さんはそこまでは行きつかなかったけれど、その期間が続いていたらもっと追い込まれていただろうと。

嶋田:はい。でももし、誰もが僕にとっての「無料相談所」のような居場所を持つことができたら、救われる人もいるんじゃないかって。それで会社員をやりながら、友人である喜屋武くんと、誰でも店主になれる場所としてソーシャルバー「PORTO」を始めたんです。

「共動」の先に辿り着いた、ひとりぼっちじゃない世界

-「PORTO」をはじめてからは、「なにかをしないとひとりぼっちになってしまう」っていう感覚はなくなったんですか?

嶋田:それが、正直そんなことなかったんですよね(笑)。

コロナ禍になって、それまで「PORTO」に関わってくれてるみんなとも会えなくなるじゃないですか。そんななかで、日替わり店長たちを集めて2周年イベントをやろう、ってことになったんですけど、「みんなきてくれるかな…」って不安になってしまって。

でも、いざ開催してみたら、みんな前のめりに関わってくれたんです。「PORTO」のことを自分ごととして語ってくれたり、キャンドルをつくってくれる人がいたり、「PORTO体操」みたいなものを考えてくれる人もいたり(笑)。

そういう姿を目の当たりにして、「ああ、これはみんなのこと信じないと失礼だな」って。そういうこともあって、だいぶひとりぼっちだという感覚はなくなってきた気がします。

あとは、一緒に「PORTO」を立ち上げた喜屋武くんの存在はとても大きいですね。僕はきゃんって呼んでるんですけど。

-きゃんさんは、嶋田さんにとってどういう存在なんですか?

嶋田:なんていうか、会わなくても繋がってる感覚が生まれ始めてるんですよ、最近。「僕のなかにちゃんときゃんがいるし、きゃんのなかにちゃんと僕がいる」って、信じられる存在というか。

それは、きゃんとは「共動」できていたからなんだと思います。

-「共動」?

嶋田:よく、「理解してほしい」とか「共感してほしい」とかいうじゃないですか。でも僕は、理解されることも、共感されることも、あまり信じられないんですよね。どちらがあっても、「結局ひとりぼっちだ」と思ってしまう。SNSなどで理解や関心、共感を示してくれる人たちには、申し訳ないのですが…。

だけど、誰かと同じ目標に向かって動いて、一緒に喜んだり悲しんだり、つまり「共動」することではじめて、自分はひとりぼっちじゃないと信じられるんだと思います。

-ああ、「共動」を通じて、「会わなくても繋がっている感覚」が生まれていったんですね。

嶋田:そうですね。僕、このインタビューの最初に、「『誰もが居場所をつくれる』ということがビジョンで、そのために『PORTO』も『コアキナイ』もやってる」って言いましたよね。

でも本当は、僕にとっては『誰もが居場所をつくれる』も、厳密に言えば手段なんだと思います。本当にもとめているのは、誰かと「共動」することなんです。

-ひとりぼっちにならないために。

嶋田:そうです。僕が「この人たちと生きていきたい」っていう人たちと関係をつくっていくためには、なにか「共動」するためのプロジェクトが必要なんです。じゃあ何をやろうか、って考えたときに、「強いていうなら、みんなが居場所を感じられる社会をつくりたいな」って考えて、居場所づくりの活動をしている、っていう順番なんですよね、本当は。

 

多くの人を縛る「成功の物差し」へのレジスタンスとして

-最後に、「履歴書」というものについて思うことってありますか?

嶋田:かつては「成功」と「幸福」がイコールだった時代もあったと思うんですけど、今は「幸福」のかたちが多様になってるから、「成功」しても「幸福」になれないひともいるじゃないですか。でも一方で、まだ「成功の物差し」に縛られてる人もたくさんいる気がするんです。

-「成功の物差し」ですか。

嶋田:たとえば、「インフルエンサーになるために、SNSのフォロワーを増やしたいんです!」って言っている若者とよく出会います。別にそれ自体はいいと思うんですけど、なかには、自分と向き合うプロセスを経ずに、誰かが決めた「影響力を持たなきゃいけない」っていう「成功の物差し」を信じてしまってる人もいると思うんですよね。そういう人は、「僕が1000人分のフォロワーになるから大丈夫だよ」って抱きしめてあげたくなります(笑)。

-それは心強い言葉だ(笑)。

嶋田:「コアキナイ」の活動は、「成功の物差し」へのアンチテーゼだなと思ってます。ここ「コアキナイビル」は、個人の「らしさ」を起点に事業をつくる人たちが共同生活をしていたり、一階は「コアキナイガレージ」という、いろんな人のコアキナイを通じてつくられた商品を手に取れるスペースになっていたりするんですよね。

つまり、ここは、他人が決めた「成功の物差し」を気にするんじゃなく、自分が決めた幸福なあり方を目指して活動する人が集まる場所なんです。そしてここで彼ら・彼女らと接することで、「こういう世界線がちゃんと存在してるんだ」ってこの場に訪れる人に感じてもらえたらと思ってます。

しかもそんな場所が、ある意味「成功の物差し」の象徴のような東京証券取引所から徒歩3分の場所にあるっているのが、おもしろくないですか?(笑)。

-そうでしたか! それはおもしろい(笑)。

嶋田:「コアキナイ」は、そんな場所で、「成功の物差し」に対する小さなアンチテーゼになったらいいな、という思いで取り組んでいるんです。

インタビューを終えて

「ずっと抱えてきた、ひとりぼっちであるっていう感覚が、最近なくなってきたんですよ」

そう語る嶋田さんの言葉は、これまでずっと孤独を感じていたという方にとって、いつかその状態から抜け出せるという希望になるようなものです。

そして、その鍵は「共動」にありそう。

いやいや、そんな簡単に「共動」なんてできるなら苦労しないよ、という声も聞こえてきそうです。そんな方は、まずは「PORTO」や「コアキナイビル」を訪れてみてはどうでしょう。

実は「共動」ってこんなに楽しそうで、気軽なものなんだということを、嶋田さんたちと接するなかで感じることができるかもしれません。

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