僕らは、自分の人生の物語を歩んでいい。 /  生き方編集者 山中康司
#009

僕らは、自分の人生の
物語を歩んでいい。
生き方編集者山中康司

「もし、履歴書に自由に項目をつくって自分を紹介できるとしたら、どんなことを書きますか?」
Proff Magazineでは、履歴書の自由なあり方を考えるために、そんな質問をさまざまな分野で活躍する方に投げかけてみることにしました。
今回話を聞いたのは、生き方編集者の山中康司さん。「人生の物語」をテーマにした記事の編集・執筆、ワークショップデザイン、キャリアカウンセリングなどを行う山中さんは、自らの履歴書についてどんなことを語るのでしょうか。

「いまだ語られていない人生の物語」に寄り添いたい

–現在の仕事について教えてください。

山中康司さん(以下、山中):僕はいま、「生き方編集者」と名乗りながらフリーランスで働いています。主に取り組んでいる活動は自分なりに3つに分けていて。

まず、「ともにつくる」。1対1で話を聞くことで、その方の人生の物語をともに編集しています。わかりやすく言うとキャリアカウンセリングですね。

その次が「語り合う場をつくる」。イベントやワークショップ、コミュニティなど、生き方やキャリアを一緒に考えていけるような場をつくっています。

最後に、「伝える」。誰かの人生の物語を広く伝えることを目的に、インタビュー記事やコラムなどをつくっています。

生き方編集者の仕事はこの3つで構成されていて、すべてが「人生の美しさを伝えたい」という想いに貫かれているんです。僕は、どんな人の人生でも美しさがある、と想っているので。

–どのような分野で活動しているのでしょうか?

山中:過去にNPOで働いていたり、地方系の仕事をしたりしていたので、ソーシャルデザイン、ローカル、フリーランスなど自分のバックグラウンドを活かせる領域の相談をもらうことが多いですね。

ただ、それらの領域にこだわっているわけじゃないんです。言葉選びが難しいんですけど……「いまだ語られていない人生の物語に寄り添いたい」という気持ちがあって。

–「いまだ語られていない人生の物語」、ですか。

山中:一概には言えないですが、都市部の大企業に勤めている人はキャリアのサポートも受けやすく、比較的人生の物語をつくりやすいと思うんです。会社でキャリアカウンセリングを受けれたり、転職エージェントも手厚くサポートしてくれたりするじゃないですか。メディアで多くの人の目に触れるのも、お金をたくさん稼いだり、なにかの分野で偉業を成し遂げたりと、いわゆる「成功」をした方の人生の物語が多いわけです。

山中:一方で、キャリアのサポートが受けられなかったり、その人の人生の物語がなかなか誰かの目に触れないような人もいる。ソーシャルデザインに関わる人、地方に移住する人、フリーランス、アーティスト、障がいのある方などです。大企業に勤めている人の人生の物語がそうであるように、そうした人たちの人生だって、かけがえのない物語なわけです。僕はそうした方々の「いまだ語られていない人生の物語」と出会うのが好きなんですよね。

 

誰かがつくった物語の中で生きようとしていた

–人生の物語のことを意識しはじめたのはいつ頃ですか?

山中:大学を卒業した直後ですね。実は20歳を過ぎた頃まで、人と接するのが極端に苦手でした。コンビニで働いていた時なんかは、レジに立つと汗がダラダラ出て動機がはやくなって、まともに接客できなかったので、裏でチキンを揚げるフライヤーを洗ってばかりいたんです。だけど、それも社員さんとのやりとりがつらくなって、長くは続かなかった。これはちょっとおかしいぞ、ということで大学3年生の時に病院に行ったら、社会不安障害と診断されたんです。

だから企業説明会にも行けないし、就活をせずに卒業を迎えることになって。周りの人は大企業に就職していくけど、自分はバイトもできずに実家でテレビを観ながら寝ているだけでした。

ずっと勉強も運動も得意なほうで、「レールの上を順調に歩いている」と思い込んで生きてきたのに、見事にそこから外れてしまったんです。

–それは苦しかったですね……。

山中:「なにも仕事ができない自分には価値がない」と思って、どん底まで落ちましたね。

そのうち、ストレスからかパニック発作を起こすようになって。電車とか映画館とか、密室にいくと胸がバクバクいって息が苦しくなって、その場にいられなくなるんですよ。

そんな状態じゃ、いよいよ働けない。ちょうどその頃、独居老人の孤独死が問題になってたんですけど、「まともに働けない自分も、両親が死んだらひとりになって、誰にも気付かれず死んでくんだろうな」って本気で思ってました。

山中:でも同時に、それまで自分を縛っていた「こうあるべき」という人生観にヒビが入ったような感覚もありました。もうそのままの自分じゃ生きていくことができなかったから。

そんな時、キャリアアドバイザーに相談する機会があって。「僕は人と接するのが怖いし、バイトもろくにできなかった。他の人と同じようには働けないと思います」と過去のことを打ち明けたんです。そうしたら、「その経験は山中さんしか持っていない。そんな山中さんだからこそ、できることがあるんじゃないですか?」って言ってくれて。

世界が180度変わりましたね。それまで拭い去りたかった過去が、実は自分にしかない、かけがえのない経験だったのだと思えるようになったんです。

学生時代は気づいていなかったけど、僕はずっと誰かがつくった「こう生きるべきだ」という物語の中で生きようとしていたから、生きづらかったんですよね。でも人生の物語は人がつくるものじゃなくて、誰か耳を傾けてくれる人がいれば、自分で物語っていけるものなんだと。そう気づいてから、希望を持って少しずつ前に進めるようになりました。

–ああ、その方と出会えてよかった。

山中:ちょうど同じくらいのタイミングで、僕にとって大事な本との出会いもありました。民俗学者の宮本常一さんの『忘れられた日本人』という、日本の歴史の中であぶれちゃうような人々の暮らしや文化を聞き書きした本なんですけど。高知県檮原町で宮本さんが出会った盲目の牛馬売買人の話をまとめた「土佐源氏」という文章などを読みながら、めちゃくちゃ感動したんです。

本を読み進めるうちに、どの人生も交換不可で掛け替えのない物語だということが腑に落ちたんですよね。僕の人生も、あなたの人生も、あの人の人生も物語だなと。

–いまの山中さんの仕事にも通じるものがありますね。

山中:僕も宮本さんのような存在でありたいと思っています。あまり光が当てられないような人たちの人生の物語と出会いたいし、そのかけがえのなさ、美しさを誰かに伝えたくて。そんな思いで、「生き方編集者」を名乗り始めました。

 

カウンセラーではなく、編集者と名乗る理由

–そこから編集者としてのキャリアがはじまっていったのですね。「生き方を編集する」って、具体的には「相手の中にある感情や物語を引き出していく」ということなのでしょうか?

山中:すでにその人の中にある物語を引き出すというよりも、一緒につくっていくような感覚がありますね。

たとえば、AとBとCのエピソードがぽつぽつと口から出てきたとして、本人の中では一貫性が無くても、話を聞いていると共通の要素が見えてくるんですよ。で、それをもとに仮の筋書きをつくるのが僕の役目なんです。

「僕にはこういう風に見えたんですけど、どうですか?」とボールを投げてみると、それを受けた相手は「言われてみると、確かにここはそうかもしれない。でもここはちょっと違うかも」と返してくれる。そういうやり取りを繰り返して、一番納得できる物語を一緒につくっていくんです。

–一方的に働きかけるんじゃなくて、共同作業を大切にされているのですね。

山中:あくまでも語り手はその人なので。小説でいえば、僕は小説家を支える編集者の立場です。

「自分が誇れるスキルって何だろう?」と考えていた時に、医師で文学研究者であるリタ・シャロンが書いた『ナラティブ・メディスン』という本の中で、これだと思える表現を見つけて。「物語能力」という、「患者の病の物語を認識して、吸収して、解釈して、それに心を動かされて行動するために必要な能力」を表した言葉らしいんですけど。

僕は医療従事者じゃないから、患者さんの物語に耳を傾けているわけじゃないけど、何か秀でているものがあるとするならこれかもしれないなと。

–物語能力ですか。

山中:その人の話をただ聞くことなら、他のカウンセラーとかコーチでもできる。でも自分だからこそできる仕事って、そこから物語をつくっていくことなんですよ。

これがキャリアコンサルタントとかカウンセラーと名乗らずに、生き方編集者と名乗っている理由でもあります。僕は話を傾聴してくれる人じゃなくて、物語を一緒につくっていく存在でありたいんですよね。

–確かに、話を聞いてもらえたら一時的に心は落ち着くけど、また悩みのループにはまってしまいますよね。これまでとは違う角度から光を当ててもらえたら、少しずつ考え方が変わりそう。

山中:この仕事をしていて一番嬉しくなる瞬間って、完成した記事を本人に読んでもらって「自分の人生にはこういう意味があったんだ!」と気づいてもらえた時なんです。自分の物語に感動できるっていうことは、人生に新たな意味付けができたっていうことでもあるから。僕はそういう瞬間に深い喜びを感じています。

 

見えないものを見て、聞こえない声を聞く

–山中さんは、物語能力をどんな風に培ってきたのでしょうか?

山中:そもそも物語を生む能力って、いくつかの要素に分解できる気がしています

1つ目は共感力。僕は小さな頃から他者に対してわりと共感しやすい方だったので、もとから素養があったのに加えて、キャリアコンサルタントの国家資格をとるために勉強をするなかで身につけたのかもしれません。2つ目は構成力。これは本を読む中で物語の組み立て方を学びました。まだまだ磨いてるところですけどね。3つ目は描写力。これはまだ上手いわけじゃないけど、ライターや編集者の仕事を通して少しは身につけたのかな。

物語能力は、こういうものが組み合わさって培われたのだと思います。

–かなりロジカルな作業というか、思考をフル稼動させてつくっているのですね。

山中:いや、それだけでもないですよ。「この人が話しているAとBのエピソードの背景には、共通の価値観がありそうだな」と頭で考えながら整理するのもすごく大事だけど。

その一方で、「なんかこの人ってこういう感じだんだよなあ」という印象も大切にしていて。たとえば話を聞く中で「本当はすごく寂しいんじゃないのかな?」とか。ぽっと浮かんでくるんですよね。

–頭の中に映像が浮かぶようなイメージですか?

山中:むずかしいな。ああ……そうだな、声が聞こえてくるような感じかな。その人の心の底から湧いてくる声。本人も聞き取れていないようなものが聞こえる感じ。集中して話を聞いていると、そういう瞬間がよくありますね。

それって直感だから、全然ロジカルじゃないですよね。でもそういうものを引っ込めちゃうんじゃなくて、「何か大事なことを教えてくれてるかもしれないな」と思うようにしています。

直感で心の声をキャッチしたら、自分で決めつけずに相手に確認するんです。「寂しさみたいなものを感じたんですけど、どうですか?」って。

–思考と感覚のちょうどいいバランスを探っているのですね。

山中:たしか村上春樹さんが言ってましたけど、言葉っていう器は限られてるから、そこに乗るぶんしか乗らないじゃないですか。だから、言葉にはならない直感とか感覚みたいなものって重要だなと感じています。

山中:作家の辺見庸さんが、通信社の記者になりたてだった頃に中国人の古老から「見えない像を見なさい。聞こえない音を聞きなさい」と聞かされたそうなんですけど、僕もそれが聞き手として大事なことだと思っていて。

その人の生き方とか話してくれたことを、ただ並べ立てるだけならAIでもできるじゃないですか。でも人間じゃないとできないことって、「めっちゃ幸せです」って言っている人が実は悲しそうな顔をしてたとか、そういう瞬間を見逃さないことだから。

その人の心の奥から湧いてくる声にちゃんと気づける存在でありたいんですよね。なかなかむずかしいけれど。

 

履歴書には「妄想企画」を書きたい

–山中さんが履歴書に自由に項目をつくれるとしたら、どんなことを書きますか?

山中:「妄想企画」という項目をつくりたいです。

履歴書って、「履歴」っていう名前にある通り「これまでなにをしてきたか」を書くもの、っていうイメージがあるじゃないですか。でも、いまの僕は「これやりたい!」っていう未来に共感してほしい。「面白いじゃん! やろうよ!」っていうノリで仲間になれる関係性が気持ちいいんですよね。

しかも妄想だから無責任に書けるのもいい(笑)。運よく仲間が集まって、実現したらラッキー! みたいな。

–どうしてその項目が大事だと?

山中:なんだろう……スキルや経歴を書くと、なんとなく相手と向き合って「ジャッジする/される」って感覚になるじゃないですか。でも「これやりたい!」っていう未来を書いた時には、向かい合うんじゃなくて、お互いが一緒に同じ未来をみてる立ち位置に立てる気がする。その関係性が気持ちいいんでしょうね。

小さい頃の、「今からドッヂボールしようよ」「いいね!」っていうやりとりみたいな。そんな感覚で仕事も始めれたらいいなって思うんですよね。

>山中さんのプロフ

 

みんなで新しい物語を見出していく

–最後に、これから山中さんがやりたいことを教えてください。

山中:短期的には、一緒に人生の物語をつくるコミュニティを運営したいです。僕は「生き方は関係性という土壌で育まれる」と思っているんです。物語は一人でつくれるものじゃないので、弱さを見せ合いながら一緒に生み出していけるような関係性があると豊かですよね。いままさに、そういう場を設けるために動いているところです。

あとは1~2年のうちに本を出したいかな。『忘れられた日本人』のような、いまはまだ語られていない人生の物語に光を当てた本。かつての自分のように、生き方について悩んでいる人の希望になるような作品をつくれたらいいなと思います。

–全国を歩き回って聞き書きできたら素敵ですよね。

山中:そうですね。あとは、これは妄想なんですけど、いつか田舎でカフェとか宿とかキャンプ場みたいな「そこに来ると人生の物語が生まれる」ような場をつくりたいです。

都会は、誰かがつくった物語の引力が強いと思うんですよね。広告や日々の会話のなかで、「こう生きるべきだ」っていうメッセージを受け取り続けてしまう感覚がある。だから環境を変えて、自分がありのままでいられるような土地で、一緒に物語をつくっていけるような場があったらいいなと。

別に研修とか合宿とか、かた苦しい用事ではなくて、悩みを抱えた人がふらっと訪れて、ハーブティーとかパンを飲み食いしながらほっと一息ついて、夜焚き火をしながら一緒に人生を振り返ってみる、みたいな。みんなで新しい物語を見出していける、そんな場をいつかつくれたらおもしろそうだな、と思っています。

 

(執筆・撮影:馬場澄礼

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