安定志向だからこそ、大企業ではなく起業を選んだ。24hブラプロデューサー・小島未紅の「安定を自分で定義する」生き方
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安定志向だからこそ、大企業ではなく起業を選んだ。 24hブラプロデューサー・小島未紅の「安定を自分で定義する」生き方
株式会社ashlyn代表小島未紅

近年、安定志向の人が増加しているといわれます。社会が不確実だからこそ、「安定している大企業に勤めたい」とのぞむ人が増えているんだとか。

一方で、「安定志向だからこそ、起業した」という人がいます。それが、株式会社ashlynを立ち上げ、日本初のノンワイヤーブラ専門ブランド「BELLE MACARON」をプロデュースする小島未紅さんです。

もともとは、安定をもとめて大企業に就職したという小島さん。いったいなぜ、「安定志向だからこそ、起業した」のでしょうか? 小島さんの生き方に迫ります。

着け心地を大事にしたランジェリーブランド

-小島さんはランジェリーブランド「BELLE MACARON(ベルマカロン)」を運営していますね。「BELLE MACARON」はどんなブランドなんですか?

小島さん(以下、小島):ノンワイヤーブラ専門のD2Cブランドで、商品としては、「一日中快適な着け心地」をコンセプトにした「24hブラ」を販売してます。

-着け心地を大事にしているんですね。

小島:そうなんです。これまでの日本のブラって、デザインや補正効果は高いものの、長時間着用するにはあまり着け心地がよくないものが多かったんですよね。でも、働く女性や育児中の女性にとって、長時間苦しいブラを着け続けるのは本当につらいことで。男性だとしたら、ずっとネクタイをきつく締めているような感じかもしれません。

-それはつらいですね。ネクタイならちょっと緩めたりもできますけど、ブラはなかなかそうはいかないでしょうし。

小島:そうなんですよ。だから、旅行や夜勤などで24時間ブラを着用してもつらくないように、ストレッチ素材をメインに使用した軽い着け心地にしています。

-これまで、どれくらい販売されているんですか?

小島:ECをメインに販売して、シリーズ累計販売数1万枚突破してます。

-1万枚! それはすごいですね。

小島:ありがとうございます。もちろん販売数も嬉しいですけど、 SNSで「このブラと出会って人生が変わった」とか、「すごい快適になりました」とかいう声をみると、「やってて良かったなぁ」って思いますね。

 

残業中は、「ブラとの戦い」だった

-小島さんは現在、起業家として活躍していますが、以前は大企業に勤める会社員だったとか。

小島:そうなんですよ。もともと新卒で大手IT企業に入社して、システムエンジニアとして働いていました。

-当時から起業を考えていたんですか?

小島:いやいや! ぜんぜんそんなことなかったです。私、めちゃくちゃ安定志向なので、学生時代は大企業に入りたいと思っていて。まわりに起業を考えてるって学生はいましたけど、「暑苦しくてちょっとこわい」なんて思ってたくらいで(笑)。

-安定志向だったとは、意外な感じがします。

小島:就活のときは、「出産や結婚をしても長く勤められる会社がいいな」と思ったのと、「スティーブ・ジョブズがiphoneをつくったみたいに、世の中に新しい価値を与える仕事がしたいな」という思いで、大手IT企業にシステムエンジニアとして入ることにしたんです。

-会社ではどんな仕事を?

小島:私がやっていたのは、オンラインストレージサービスの開発です。テレビでもCMをやってるような大きな案件でしたね。事業の規模でいうと4億円とか5億円くらいの。

-かなり大きな仕事ですね。

小島:そうなんです。それもあって、朝7時ごろに家を出て、夜は22時とか23時に帰宅するような生活をしてましたね。そんなハードな働き方をしてたら、ブラのことで悩むようになったんです。

-ブラのことで。

小島:長時間働いているなかで、残業中は「ブラとの戦い」でした。ずっと着けてるとくるしくなっちゃうから、ときどきトイレにホックを外しに行って、休憩して席に戻ってくる、とか。家に帰ったら、メイクを落としたり着替えるよりも、まず最初にブラをはずす、みたいな感じでした。

-まさに「ブラとの戦い」だ。

小島:日本のブラって、ワイヤーが入っているもの主流なんですけど、金具が入ってるとずれたりしたときにどうしても違和感があるんですよね。

そんな「ブラとの戦い」のなかで、「こういうストレス、多くの人が抱えてるんじゃないかな?」って思うようになって。それで、自分が「こういう商品あったらいいな」って思えるようなブラをつくってみることにしたんですよね。

-「世の中に新しい価値を与える仕事がしたい」っていう思いが、ブラの開発につながっていそうですね。

小島:そうかもしれないですね。当時はビジネスモデルがどうとか、どれくらい事業を成長させるかとかは考えてなかったです。とにかく、「このアイデアを形にしたら、どんなものができるんだろう?」っていう興味が大きかったですね。

それからは、会社員をやりながら開発に取り組んでいました。縫製工場のリストをつくって、会社の昼休みに給湯室から片っ端から電話かけたりして(笑)。そのあと、「ブラジャーをつくりたい」と思ってから3ヶ月後には会社を設立して、半年後には勤めていた会社を辞めたんです。

 

安定志向だからこそ、会社を辞めた

-安定志向であるなら、会社員をやりながら複業でブラの開発に取り組むほうがいい気もするんですけど、どうして会社を辞めようと?

小島:むしろ安定志向だからこそ、会社を辞めました。

-安定志向だからこそ?

小島:私にとっての安定って、「長く仕事を続けられること」なんですよ。逆にこわかったのは、「結婚をしたら寿退社をしなきゃいけない」とか、「産休が取れない」とか、「職場復帰ができない」とかいうことで。

-つまり、働き続けられなくなることがこわかったんですか?

小島:そうなんです。今では多くの会社で、ライフステージが変化しても働き続けられる制度は整ってきていますよね。だけど、実際には難しさもあるじゃないですか。「結婚を機に、パートナーの転勤の都合で会社を辞めなきゃいけなくなった」とか、「出産後に職場復帰したけど、通勤が大変で苦労してる」とかいう声を、私もまわりから聞いていましたし。

-なるほどなぁ。制度が整っていることと、実際に長く働くことができるかは別の話なんですね。

小島:あとは、スキル的な心配もあったんですよね。大企業だと、全体の仕事のなかで関われるのはほんの一部。ゼロから100まで、システムをつくる経験ができるわけじゃありません。それに、社内資料のデザインを調整したりとか、その会社でしか使えない言語で開発をする、っていう作業も結構あります。

だから入社2年目くらいのときに、「ここでの経験って、この会社以外でいかせるのかな」っていう疑問を持つようになって。

-ライフステージの変化で会社を離れなければいけなくなったときに、スキルがいかすことができず、働けなくなってしまうリスクがつきまといますね。

小島:そうなんです。それで、「大企業で制度が整っていたからといって、長く働けるってわけじゃないぞ」って思うようになったんです。

 

起業したら、安定している感覚を持てた

-転職するっていう選択肢もあったと思うんですが、転職より起業した方が安定すると考えたんですか?

小島:はい。起業して、自分で自分の仕事が管理できるようになれば、たとえば結婚してパートナーが転勤になっても、私はパソコン一つあればどこでも仕事ができたり、子供を産んでも抱っこしながら打ち合わせができるじゃないですか。

だから、起業したほうが企業に勤めるより安定しているなって思ったんです。自分が思う安定って、「いろんな環境やライフステージが変わっても、長く働き続けられること」なので。

でも、会社を辞めてからもしばらくは業務委託でシステムエンジニアの仕事は続けていましたね。いきなり自分の事業だけで食べていくのは、それこそ安定している状態ではなくなってしまうので。

-なるほど。今は安定している感覚はありますか?

小島:自分のモチベーションや体調に合わせて仕事が調整できたり、時間や場所を選ばずに仕事が進められるという点では会社員の頃より安定している実感があります。もちろん、「商品が売れるかな」とか、不安はたくさんありますけどね。

あともうひとつ、起業したほうが安定していると思える理由は、「自分がこのスキルをつけたい」と思ったら、いくらでもつけられることなんです。

たとえば私の場合、ホームページなどのデザインも自分でやってるので、スキルが結構身についていて、「うちの会社でデザイナーとして採用したいぐらいだよ」って、まわりの方から言われたりします(笑)。

-えっと、会社は今何人でやっているんですか?

小島:私だけでやってます。

-おひとりで!

小島:そうなんですよ(笑)。だから、商品の企画から開発、マーケティング、広報、デザイン、 SNS の運用、経理、お客様対応などなど、ぜんぶ自分でやってますね。ホームページも自分でつくったし、商品の撮影のディレクションもしたし…。

-てっきりチームでやってるのかと思っていました。それはいろいろなスキルが身につくだろうなぁ。

小島:なので、考えたくもないけど会社がうまくいかなかったときには、スキルをいかして働いていくことはできるなって、今では思えます。そういう確固たるスキルができたのも、私にとって安定につながることなんです。

-小島さんと話していて、「安定」の定義がときほぐされていくような感じがしています。会社に所属することが安定なのではなくて、どこに所属しなくても働き続けられるようにスキルを身につけるということが安定なのですね。

小島:今はそう思っています。

 

ドラマを通じて、仕事観がつくられた

-最後に、履歴書ついてなにか思うことはありますか?

小島:今の私の履歴書は、いわゆる「キレイな履歴書」ではなくなってると思うんですよ。履歴書が誰かから雇用をされるためのものだとすると、「社長」っていう経歴って、雇用する側からしたら扱いにくいと思われるんじゃないかなぁって。

-それでも今が安定している感覚があるっていうのは、小島さんが雇用を前提にせずとも働き続けられる手応えを持っているからなんでしょうね。

小島:たしかにそうですね。

-じゃあ、雇用されることが目的なのではなく、自分を深く知ってもらうための履歴書をつくるとしたら、どんな項目を入れますか?

小島:そうだなぁ…「影響を受けたドラマ」を書くかもしれませんね。

-ドラマですか!

小島:私、小学生のころからドラマをたくさん見てたんです。特に、バリバリ仕事で活躍する女性が出てくるドラマが好きなんですよね。『恋ノチカラ』とか『ER 救命病棟』とか『踊る大捜査線』とか。ああいうドラマで活躍してる女性を見て、「かっこいいなぁ、私も早く仕事したいなぁ」って、小さい頃から思ってて。

-小島さんの「長く働き続けることが安定」っていう価値観は、ドラマから受けた影響も大きいんですか?

小島:そうかもしれません。私、仕事で何か達成すると「よっしゃー!!」って気持ちになるんですよね(笑)。そういう喜びを感じられることは、私にとってすごく大事なこと。だからこそ、長く働き続けたいんです。そういう価値観を知ってもらうために、Proffに「影響を受けたドラマ」を書きました。

そういえば私、自分の話するの苦手なんですよ(笑)。仕事の話は起業家同士なら楽しくできるかもしれないけど、興味がない人も多いと思うし。その点、ドラマの話とか音楽の話を履歴書に書くことができると、話のきっかけになっていいかもしれないですね。

 

インタビューを終えて

Proff Magazineの過去のインタビューで、ソーシャルバー「PORTO」のオーナーである嶋田匠さんは、「現代は、成功=幸福ではなくなっている」と語っていました。(その記事はこちら

「成功のものさし」を自分でつくることが必要になっているのと同じように、「安定」についても、どんな状態が安定なのかを自分自身で考え、定義する必要がありそうです。少なくとも、「大企業=安定」と言い切ることは難しくなっているのだし。

「自分にとっての安定ってなんだろう?」
「そしてそれは、どうしたら手に入れることができるんだろう?」

この問いは、生き方を考える一つの手掛かりになりそうだということを、小島さんの生き方は気づかせてくれます。

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