「元プロ野球選手でも、こんなキャリアを歩めるんだ」と示したい。コンサルタント・久古健太郎の「キャリアの選択肢を切り開くことで、ロールモデルとなる」生き方
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「元プロ野球選手でも、こんなキャリアを歩めるんだ」と示したい。 コンサルタント・久古健太郎の「キャリアの選択肢を切り開くことで、ロールモデルとなる」生き方
コンサルタント久古健太郎

いまの仕事とはまったく違う世界に飛び込んでみたい–。

そんなふうに考えながらも、一歩踏み出せていない方にとって、久古健太郎(きゅうこ・けんたろう)さんの生き方はヒントになるかもしれません。

久古さんは、「プロ野球選手からコンサルタントへ」という、異色の経歴の持ち主。2010年にドラフト5位でヤクルトスワローズに入団し、左の中継ぎ投手として通算228試合に登板。2015年のリーグ優勝にも貢献しました。しかし、2018年10月に戦力外通告を受けて引退。その後、3か月弱の転職活動を経て、現在は大手コンサル会社「デロイト トーマツ コンサルティング」に勤めています。

プロ野球選手からコンサルタントへ。大きな決断の背景にはどんな経験や想いがあったのでしょう。久古さんの、“キャリアの選択肢を切り開くことで、ロールモデルとなる生き方”に迫ります。

「元プロ野球選手だからスポーツに特化する」という道は、あえて選ばない

-久古さんは、現在どういうお仕事をされているんですか?

久古さん(以下、久古):コンサルタントとして、クライアント企業のCRM、つまり顧客との関係づくりや、地方創生、スポーツチームのマーケティング支援等のプロジェクトなどに関わっています。

-てっきりスポーツ業界を専門にしているのかと思っていました。

久古:むしろ主軸は、スポーツと関係がないプロジェクトに入らせていただいていますね。

-主軸をスポーツ以外に置いているのには、なにか理由が?

久古:将来的に、スポーツの世界にマネジメント側として入りたい、という気持ちがあるからこそ、今はあまり領域を狭めずに、ちゃんと土台をつくりたいんです。どんなプロジェクトに関わっても、自分のパフォーマンスを出せるようにしたいなと。

-慣れ親しんだスポーツの領域の方がパフォーマンスを出せる、ということではなく。

久古:「自分はこの世界の専門家を目指しているから、この世界で経験を積まなきゃいけない」って決めつけてしまっている人は結構多いですよね。でも僕は、それはもったいないなと思う。自分の幅を狭めているだけだなと。

自分が意図していなかったような経験をしておくことが、のちのちいきてくるはずなんです。だから、偶然舞い込んできた仕事を拒絶するんじゃなく、あとで自分の目標につなげて、偶然を必然に変えればいいんですよね。

 

長期的にキャリアの選択肢を広げることが重要だった

-久古さんは、どういうきっかけでプロ野球選手からコンサルタントになろうと思ったんでしょうか。

久古:ヤクルトスワローズに所属していた2018年の6月か7月ぐらいのころ、二軍でも思うような結果が出せなくなってきていたんです。それに、調子のいい時期もあったんですけど、若い選手が優先して一軍に上がったりと、自分の使われ方が一軍でチャンスをもらえるような感じではなくなってきていたので、「これは、もう厳しいかな」と思って。

-それで、次のキャリアを考え始めたわけですね。

久古:はい。プロ野球選手だと、セカンドキャリアで球団職員など、野球に関わる道を選ぶ方が多いんです。でも僕は、社会に出てビジネススキルを身につけることで、いろんなキャリアの選択肢を持ちたいと思って。そういう思いが、引退するちょっと前ぐらいから出てきたんです。

-なるほど。目先の安定よりも、長い目で見てキャリアの選択肢を広げることが大事だったと。

久古:そうですね。自己分析もしたんですけど、野球以上にやりたいことが、正直出てこなくて。だから、いつかやりたいことが見つかったときに、実現できる状態にしておきたいなと。

それで、キャリアに関する本を読んで、どういったキャリアの歩み方があるのかとか、ステップアップの仕方とかを調べていくなかで、「コンサルタントという仕事は、汎用的なスキルをつけられるらしい」ということを知ったんです。

僕は当時32歳だったんですけど、引退して3年、4年かけて汎用的なスキルをつけるにはぎりぎり間に合うタイミングかなと思って、コンサルタントを志望することにしたんですよ。

 

取り返しのつかない失敗はない

-久古さんのように、「これまでの仕事とはまったく違う世界に飛び込みたい」と思っている方はたくさんいると思うんです。でも、それまでの仕事とギャップがあるのが怖くて、なかなか一歩踏み出せない方も多いだろうなと。プロ野球選手からコンサルタントになって、ギャップは感じませんでしたか?

久古:もちろん、めちゃくちゃありましたよ。まずは議事録をとるところからでしたけど、そもそもコンサルの方が使う言葉が理解できないから、話されている内容がわからないし。メールでやりとりをすることにも慣れていないから、添付するファイルのサイズが大きすぎて送れず、どうしていいかわからなくなるとか。そんな状態でした(笑)。

-コンサルならではの慣習のようなものもありそうですしね。

久古:それはありますね。当初は「今それをお客さんに言ったらだめでしょ」みたいなことがわからず、平気で言ってしまったり。どのタイミングで冗談言っていいのかとかもわからないから、変なタイミングで冗談を言って、滑ってしまうこともありました。「さっきまであんな笑顔でしゃべってたのに、なんで今こんなシビアな空気出てるんだろう」とか。場の空気が分からないんですよね。

細かいですけど、一つひとつの業務が、自分にとっては高いハードルでしたね。周りの人は、直接言っては来ないけど「ただの使えないやつだな」とか、「なんでこんなこともやれてないんだ」とかいったふうに思ってるんじゃないか、とも考えましたし。結構しんどかったですね、最初は。

-その大変な時期を、どういうふうに乗り越えていったんですか?

久古:そればっかりは、「習うより慣れろ」です。いろんな失敗を重ねて、「あ、こういうときは失敗するんだな」とか、「じゃあこういうのやめようとか」、だんだん共通点が見えてきて。そんなふうに、経験でしか学べないかなと思います。

でもまあ、そういう失敗って取り返しがつきますからね。野球に例えると、当時はキャッチボール以前に、ボールに触れるようになるために試行錯誤していた段階。その時期を経て、入社から3年たった今、やっと試合で活躍できるようになってきた。そうすると、いろんな失敗も「あの人も、そういう時期があったね」くらいで終わるので。

当時はしんどかったですけど、長い目で見れば、新しく飛び込んだ世界で最初ギャップに苦しんでも、別にそこまで気にする必要はないんだな、と思いますね。

-なるほど。新しい世界に飛び込んだら、失敗ばかりで落ち込むこともあるかもしれないけれど、その多くが取り返しがつかない失敗じゃないと。

久古:はい。ちゃんと一生懸命やっていれば、いつか取り返しはつくんだなと、今となっては思います。

元プロ野球選手のロールモデルになりたい

久古:この3年間は、大変な思いをしたこともありましたし、辞めたいなと思うこともちろんありました。でも、自分から諦めることだけはしたくなかったんです。

-それはどうしてでしょう?

久古:アスリート、とくにプロ野球選手に対するロールモデルになりたいという気持ちがあるので。僕のキャリアが唯一の正解というわけではないですけど、選択肢のひとつとして、こういう考え方であったり歩み方があるというのは示していきたいなと。

僕が諦めたら、「やっぱり野球選手はだめだったか」って言われちゃいますし。失敗事例はどうしてもつくりたくないんです。

-なるほど。そう思うようになったのには、なにかきっかけがあるんですか?

久古:プロ野球選手のキャリアに対する固定観念を感じていたんですよ。「元プロなら、できるのは野球に関する仕事だよね」みたいな。

「僕、野球やってきたんで、とりあえず野球に関わる仕事をします」といったように、選手自身が自分で自分の可能性を単純に決めつけるのもよくない。あとは周りが、「あの人は野球選手だから」っていうだけで、その人をステレオタイプを持って評価するのもよくない。それぞれ得意不得意も違うわけなので、元プロ野球選手だからと一括りにするのではなく、一人の人間としてみないといけないですよね。

– プロ野球選手だと、引退後は球団職員や解説者など、野球に関わる仕事につくイメージがあります。でも、慣れ親しんだ世界の仕事に就く方が、安定しているというわけではないと?

久古:引退と言っても、20代、30代なわけです。一般の定年まではまだ30年、40年あることを踏まえて先を見通すことが大切だと思います。引退したときの最初の選択がすごく大事。多くの方が、不安だからという理由で、手を差し伸べてくれるところに安易にすがってしまいがちです。だけど、本当に30年、40年野球の仕事をし続けるのか。その先のことまで考えて、ちゃんと選択をしないといけない

-就職や転職では、中長期的なビジョンを持って仕事を選ぶことがすすめられることがありますが、プロ野球選手でもそれは同じわけですね。

久古:はい。でも、元プロ野球選手の僕でさえ、現役の選手とキャリアの話ってしにくいんですよ。一生懸命頑張っている現役の選手に「引退した後のことを考えたほうがいいよ」って、こっちから持ちかけるのは難しいですから。

だからこそ、まずは自分が今までないようなキャリアを歩むことで、「元プロ野球選手でも、こういったキャリアを歩めるんだ」ってロールモデルを示したい。僕のキャリアを知った人が、プロ野球選手のキャリアに対する見方を変えるきっかけになればと思っているんです。

履歴書を書くときに意識した「俯瞰と抽象化」

-Proff Magazineでは、みなさんに履歴書のあり方について質問しています。久古さんも、コンサルタントになるにあたって履歴書を書いたわけですか。

久古:そうですね。履歴書を書く時間は、自分と向き合ういい機会でした。キャリアの本を読んだり自己分析をしたり、プロ野球からビジネスの世界に就職した先輩に相談したりして。自分のスキルとその前提となる経験を、3つくらいに整理して書きました。

-どういうことを書いたんでしょう?

久古:たとえばプロ野球に入る前、日産自動車の野球部に所属していたことがあるんです。そのとき、ちょうど野球部が休部になることが決まって。僕自身もピッチャーとして全然だめで、ストライク入らないような状態だったので、「もう、野球辞めようかな」と思っていたんですよ。

そんな野球部の、最後の大会。「勝っても負けても、野球部は終わる」という、ある意味究極の状況です。そんな状況で、みんながどんなマインドで試合に望んでたかというと、「とにかく、出し切ろう」だったんですよ。

-とにかく出し切ろう。

久古:勝ち負けは、もう超越してるんです。「いつ終わってもいいように、この試合、自分たちが持ってるものをすべて出し切ろう」というマインドで、みんなプレーしていて。そのとき、僕は試合も出れず、ベンチで見ていたんですけど、みんなの姿を見て「ああ、もうこれ以上のメンタルの持ち方ってないな」と、強く印象に残ったんです。

そんな体験があったから、次の年に入った宮城県石巻市の社会人チームでは、「とにかく、自分のベストを出し切ろう」ということに集中して、練習や試合に臨んだんです。そしたら、上手く気持ちをコントロールできるようになって、その1年後、プロに入れたんですよ。

そんな経験があったので、「とにかく出し切ろう」というマインドを持っていることを、履歴書に書いたりとか。

-野球を通して学んだことではあるけれど、どの分野でもいきることですね。それを、履歴書を書く過程で言語化していったと。

久古:そうですね。ビジネス以外の世界で経験したことも、抽象化させたらちゃんとビジネスの世界でもいかせるし、結果的に会社のためにも還元できる。履歴書を書いていた時期は、野球を通じて得た経験を俯瞰的に見て、自分が何を学んだかをひたすら棚卸ししていましたね。

-僕も以前「履歴書に書くことがない」と戸惑った記憶がありますが、これまでの経験を俯瞰して、抽象化すると、どんな領域でもいかせるような強みが見つかることがありそうですね。

久古:そう思いますね。

野球の世界でマネジメントに関わることも選択肢

-最後に、今後久古さんが取り組んでいきたいことはありますか?

久古:まだ具体的に考えているわけじゃないんですけど、コンサルタントとして幅広く経験を積んだ後は、なにかしらスポーツに関わっていきたい気持ちはありますね。スポーツを単なるエンタメで終わらせず、社会的な意義を高めていきたいと思っていて。

すでにプロ野球でも、社会貢献活動に取り組んだり、社会的なクラウドファンディングを立ち上げたりしてますけど、まだスポーツの社会的な意義のイメージが社会に浸透してないなと。だからそのブランディングに関わってみたいという思いはあります。

あとは、まだ具体的には考えているわけじゃないですが、いつか野球の世界でマネジメントに関わることも選択肢として考えていますね。

-野球の世界でマネジメントに。

久古:はい。やっぱり野球の世界でも、ビジネスと同じように人を適材適所に配置したり、みんなが仕事をしやすいような仕組みをつくったりしたり、ボトムアップで意見を取り入れるようにしたりと、マネジメントがとても大事なんです。だから、僕が今学んでいるマネジメントのノウハウを、みんながちゃんと幸せに働ける球団づくりに役立てられたらなと。

-なるほど。選手自身のキャリアまで考えるマネジメントというか。

久古:そこまで考えたいですね。それこそ、単にセカンドキャリアとなるポジションを用意する、というだけのサポートではなくて、本人がちゃんと次のキャリアを自分の足で歩めるようにしてあげるようなサポートをしたい。たとえば、選手には現役時代から、引退後何をしたいのかという話をちゃんと聞いたり。「自分で考えよう、そのためのサポートはする」というスタンスで。

それは決して、現役生活を否定することにはならないんです。逆にきっと、現役でプレーしている今がどれだけ大事かというのが分かるんですよ。選手時代にできることは、やっぱりそのときしかできない。そういう、今だからできることの尊さも自覚しながら、少しずつ次のキャリアに向けての勉強もしていくことで、次のキャリアのステップを踏みやすくなる。そういう、選手のキャリアデザインの働きかけみたいなことはしてみたいですね。

インタビューを終えて

ある世界から、まったく違う世界へとキャリアチェンジをすることには、不安や恐れがつきまといます。

けれどその道を歩むことは、自分自身の可能性を広げるのはもちろん、後に続く人のロールモデルとなることもできる。
「自分は、何がしたいかわからない」という方にとって、「キャリアの選択肢を切り開くことで、ロールモデルとなる」という久古さんの生き方は、ヒントになるかもしれません。

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