楽しさにも、悩みにも、正直でいる。 / PR・ライター 工藤まおり
#021

楽しさにも、悩みにも、
正直でいる。
PR・ライター工藤まおり

「本当は、この仕事はやりたくない」
「本当は、パートナーに性の悩みを相談したい」

そんなふうに、多くの人が「本当は……」という思いを抱えながら、まわりの目を気にして我慢してしまっているはず。

「でも、楽しいことや悩みを我慢すると、なんで生きてるんだろうって思っちゃいませんか?」

そう問いかけるのは、工藤まおりさん。フリーランスとしてPR業務やライティング、動画制作をおこないながら、パートナーと共に「性」を考えるためのメディア『PATONATO(パトナト)』の運営に取り組んでいます。

女性のセルフプレジャーや、パートナー同士のセックスレスなど、多くの人が秘め事にしがちなテーマで発信を続ける工藤さんの活動の背景には、“楽しさにも、悩みにも、正直でいる”という、生き方の哲学がありました。

パートナーと共に「性」を考えるメディア

-工藤さんが運営しているメディア『PATONATO』に掲載されている「セックスレス予防ための新婚夫婦のルール」を読ませていただきました。セックスレスについてのリアルな体験談が書かれていて、強く印象に残る記事ですね。

工藤:ありがとうございます。

-2021年の11月にスタートした『PATONATO』ですが、どんな思いで始めたのでしょう?

工藤:性にまつわる悩みって、パートナー同士でなかなか話せなかったりするじゃないですか。「相手を性の対象として見れなくなってきた」とか「最近セックス誘われなくなったけど、魅力がなくなったのかな?」とか、思っていてもなかなか言えないですよね。

工藤:でも本当は、セックスの話ってもっとパートナーとしていいと思うんです。「したくない」って拒まれたとして、その言葉の背景に、相手の葛藤があったりする。それってきちんと話さないと、わからないですよね。

だから体験談やコラムを通して、自分はどんな風にパートナーと向き合えばいいのかを考えて、性の悩みを自己開示して、対話するきっかけになったらいいなと思って始めたのが『PATONATO』なんです。

-メディアを始めてから3か月で、なにか反響はありますか?

工藤:「読んで、安心しました」って声とか、「あらためてパートナーとセックスについて話そうと思いました」っていう声が届きます。あとは、とてもリアルな悩みが書かれているから、「読んでてつらい」っていう声を聞くこともありますね。

-僕は読ませていただいて、悩んでいるのは自分だけじゃないんだと、希望を感じました。ぜひみなさんにも読んで、感想を教えてほしいですね。

 

楽しさにも、悩みにも、正直でいたい

-工藤さんなぜセックスレスをテーマにしたメディアを始めようと?

工藤:自分自身が、しんどい経験をしたんです。以前同棲していたパートナーとセックスレスになってしまって……。話そうとしても話をそらされてしまうし、「しよう」って言っていてもなかなかできなかったり。

-ご自身も当事者だった。

工藤:はい。仕事であれば、うまくいかなかったら「次はこうしよう」っていう風に話しあって、解決していくことができるはず。なのに、セックスに関してはそれができなくて。なんでなんだろう、って悩んでました。

結局、そのパートナーとお別れしたあとに会う機会があって、「ぶっちゃけつらかったんだけど」って話したら、「同棲してからそういう気が起きなくなっちゃった」って言われたんですよね。「同じマンションの別の部屋に住んでたら、大丈夫だったかも」って。

それを聞いて、「なんで付き合ってる時に言わないの!?」って思ったんです。だって、私は同じ部屋じゃなきゃ嫌だなんて思ってなかったから。

彼とは結婚も考えていたから、もし当時話し合えていれば、違う結果があったのかもしれない。ちゃんと話し合った上で、別れるなら別れる、付き合うなら付き合う、って判断したかったんですよね。

-話し合うことができずに、お別れをしてしまったんですね。

工藤:そう。でも、この話をしたら、「私もだよ」って言ってくれる人がたくさんいて。セックスについて話せずに悩んでるのって、私だけじゃなかったんです。

だったら、パートナー同士で話せなくてすれ違っちゃう人たちが楽になるように、セックスについて話すきっかけになるようなメディアをつくろう! と思ったんですよね。

 

「別にいいじゃん!」と言い続けたら、世の中が変わってきた

-工藤さんはTENGAの広報時代に、TENGAと、女性向けセルフプレジャー・アイテムブランドirohaのPRに取り組んでいましたよね。当時と今では活動は違いますが、共通することもあるような気がします。

工藤:そうですね。大事だけど話せないことやできないことに対して、「別にいいじゃん!」って発信していきたい、っていう気持ちは共通してるかもしれない。

女性がセルフプレジャーをしたいという欲求だって、性欲があれば当たり前に持つじゃないですか。食欲や睡眠欲と同じようなもので。

-そう思います。

工藤:なのに、多くの人が目を背けるのが謎で。「女性も自分の身体の欲求に素直に従ってもいいじゃん!」って言い続けてました。

でも私が入社した当時は、今よりも性っていうテーマに対して偏見があった気がします。TENGAのことを新聞で取り上げていただける話になっていたのに、直前に「社内NGが出ました」って連絡があったりとか。

とくに、女性のセルフプレジャーに対して、うしろめたさを感じる方もいたと思うんです。だから、「女性だって性を楽しんでいいし、悩んだら誰かに相談してもいいんだよ」っていうことは、繰り返し伝えてきました。

-言い続けてきて、世の中のイメージは変わってきましたか?

工藤:そう思いますね。一番嬉しかったのは、百貨店にセルフプレジャー・アイテムのお店を出したときのこと。30代後半くらいの女性が、アイテムを買いに来ていて。たまたま私もお店にいたので、接客しながら「今回のポップアップストアは何で知りましたか?」って聞いたんですね。

そしたら、「ずっと、こういうことは楽しんじゃいけないって自分で言い聞かせてたんです。だけど、新聞に載っていた工藤さんの記事を読んで、自分も楽しんでいいんだ、って思って」と言うんです。

-ああ、その方は30年以上も我慢してきたのかもしれない。

工藤:ずっと、つらい思いをしてきたのかもしれないですよね。でも、そういう方に「楽しいんでいいんだ」って思ってもらえた。それを知って、「自分がやってきたことが報われたな」って。あの瞬間は、もう、涙腺が崩壊するほど嬉しかった。

それまでアダルトグッズを制作している会社で広報の仕事をしてきて、つらいことも多かったんです。性の話をすると、変な目で見られるんですよ。セルフプレジャーって普通の行為だし、間違ってることじゃないのに。なんでそういう話をするだけで、変な目で見られるんだろう、って悔しかった。

そういう雰囲気があるから、悩んでる人が悩みを言えないわけじゃないですか。だからなんとか、悩んでる人たちが話すきっかけをつくっていきたくて。つらくても「悩んでいるのはあなただけじゃない!」って言い続けてきたんです。

そうやって、つらい思いをしてもやってきたことが報われたみたいで、あの瞬間は、今思い出しても涙が出そうになるな。

 

自分に正直でいれなくて、「なんで生きてるんだろう」と思ってしまった

-工藤さんお話を聞いてると、「楽しさにも、悩みにも、正直でいる」ということを大事にしているように思えてきました。

工藤:それはあるかもしれないですね。自分が納得できないと思ったことは、基本的にはやらないようにしてるし。自分はこの仕事をしたいのか、誰と一緒にいたいのか……みたいなことはすごく考えて判断してます。そう聞くとめっちゃ自己中みたいですね(笑)

-自分に正直でいようと思うようになったきっかけはあるんですか?

工藤:私、もともと八方美人なところがあって。「人から求められないと生きていけない」って思ってるんです。だから、会社員のときもすごく周りに合わせちゃった。「自分は本当はこう思ってるけど、相手はこう言ってるから、合わせよう」みたいな。

フリーランスになった当初は、ちょっと自分がマイナスになっても、相手の主張を受け入れてしまうことがあったんですよね。

-わかります。「フリーランスあるある」ですよね。

工藤:でも、周りに合わせていたら、しんどくなってきちゃって。どんどん自分のことを大事にできなくなって、なんか、「生きてるのか死んでるのか、わからないな」って思ったんですよね。

-生きてるのか死んでるのか、わからない。

工藤:はい。「なんで生きてるんだっけ?」って。「みんな我慢してるから、私も我慢しよう」って、自分の優先度を自分で下げてるわけだから。

でも、このまま自分の楽しいことや悩みを我慢してたら、死ぬ間際に「もっと自分のために生きればよかった」って、後悔すると思ったんですよね。

-「女性だからセルフプレジャーは我慢しなきゃ」とか、「男で性欲が湧かないのは恥ずかしいから、言わないでおこう」とか、我慢してる人は多いですよね。

工藤:そう。そうやって楽しみとか悩みを我慢するのって、自分がかわいそうじゃないですか? だから我慢するんじゃなくて、「ちゃんと自分のために生きよう」って思うようになりました。

-一方で、「人から求められないと生きていけない」っていう気持ちも、工藤さんにはあるわけですよね?

工藤:だからこそ、伝えることが大事かなって。自分が思っていることを相手に伝えた上で、きちんと話し合っていけたら、相手に合わせすぎて「なんで生きてるんだっけ?」って思わずにすむと思うんです。

 

就職や転職のルールと、実際の社会にはギャップを感じる

-さて、工藤さんにスマート履歴書「プロフ」を書いてもらいました。工藤さんは履歴書にどんなイメージがありますか?

工藤:私、新卒で入った会社が人材系の会社で、たくさんの方の履歴書を見てきたんですけど、履歴書っていうものに違和感があったんですよね。「職歴がたくさんあると印象わるい」とか「キャリアを変えるなら20代じゃなきゃ需要がなくなる」とか。そういった表面的なことで判断されるような文化が、なんだか気持ちわるいなっていう思いはずっと持っていて。

-まさに、一般的な履歴書には相手や会社に自分を合わせることの象徴、のようなイメージがあるかもしれませんね。書類上で正直でいることが、かならずしも有利にはたらかない、というか。

工藤:でも、社会に出てみたらぜんぜん職歴がたくさんあってもいいし、30代以降もキャリアチェンジできるし。よく言われている就職や転職のルールと、実際の社会とイメージのギャップを感じますね。

 

「その辺にいる普通の人」でいることに意味がある

-最後に、今後やっていきたいことはありますか?

工藤:私、2021年の目標が「楽しく仕事をする」ってことなんですよ。正直、独立してから今まで仕事に忙殺されていたので。今年は、自分の気持ちに従ってやりたいことにチャレンジしようと思っています!……小学生みたいな回答ですね。インタビュー、こんな感じで大丈夫ですか?(笑)

-いやいや、シンプルだけど大事ですよね!

工藤:独立して最初の頃は、あまり自分の意見を通さず、言われたことをやる、みたいなことを続けてしまったのですが、そうしていくうちにだんだん「なんで独立したんだっけ?」って考えるようになって。

そう考えると、自分でやりたいことをやるために独立したわけで。「人に言われたことだけやってたら、会社員だった頃と一緒じゃん!」て思って、自分が心惹かれたものを仕事にするって決めました。

結果的に、楽しいことをやった方が集中できるから効率も上がって、稼げると思うんですよ。だから、今は「自分は何をしている時が一番楽しいんだっけ?」と考えながら仕事をしてます。なかなか楽しいことだけをやるのは難しいですけどね。

-工藤さんをSNSやメディアで見ている方は、キラキラしたイメージがあると思うんです。そんな工藤さんも悩んだり葛藤していると知って、意外に思う方もいるかもしれないですね。

工藤:いやー、悩んでますよ! どうやったらフリーランスとして生きていけるか、日々生死をかけて戦ってる。生きることに必死です。

でも、悩んでることってあんまり伝わらないんですよね。ほんとはあんまりキラキラしていると思われたくないんだけどな。その辺にいる普通の人って思われた方が、私が発信する意味があると思っているので。

-特別な人じゃないことに意味がある?

工藤:学会で勉強したりもしてますが、今は別に、性に関する資格も持ってないし、大学で勉強をしてきたわけでもないんです。みんなと同じように、日々悩んでる。私ってある意味「その辺にいる普通の女子」なんですよ。

そんな「普通」の私が性に対して素直に発信するからこそ、「この人が言ってるんだったら、私も」って思ってもらえるかな、って。あくまでみなさんと同じ普通の人間が、普通に感じてことなんだよって。そういうスタンスで発信してきたし、これからもしていきたいなって思ってます。

 

我慢している楽しさや悩みは、本当に「変わったこと」なのか

性のことを発信し続ける工藤さんのことを、「変わったことをしている」と見る人もいるかもしれません。でも、本当にそうなのでしょうか? 実は、当たり前のことを、当たり前のように伝えているだけ。インタビューを通して、そう感じました。

みなさんも、「これをしたいな」であったり、「これはくるしいな」といった気持ちがあるけれど、周りから見たら「変わったこと」なんじゃないかと、我慢していることはありませんか? もしあるとしたら、それは本当に、「変わったこと」でしょうか。もしかしたら、人として当たり前に感じる楽しさや、悩みなのではないでしょうか。

それを思い切って打ち明けたら、「それ、変だよ!」という声を聞くかも。でも、笑って聞き流せばいい。僕も、プロフも、工藤さんも、あなたのそんな勇気ある一歩を応援しています。

(執筆・撮影:山中康司)

ABOUT

Proff Magazineは、
スマート履歴書「Proff(プロフ)」が運営する、
誰かの人生を通じて、
あなたの生き方を再発見する、ウェブマガジン。

Proff(プロフ)は
履歴書やポートフォリオサイトを
簡単につくれるサービスです。