すべての関係性に、心を注いで生きる。 / Re.ing代表 大谷明日香
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すべての関係性に、
心を注いで生きる。
Re.ing代表大谷明日香

元号が変わり新しい時代が幕を開けた2019年、見えないところで景色を変える変化がもうひとつ待ち受けています。政府は11月から住民票やマイナンバーカードに旧姓を記載できるようにすると発表。結婚という制度に、あたらしい選択肢が加わることになりました。大谷明日香さんが手がけるREING[リング]というプロダクトもまた、多くの人々に選択肢を提供しています。

すべての関係性は、美しい

大谷が手がけるREINGは“関係性”から着想を得て生まれたブランドだ。コンセプトは「Every relationship is beautiful.(すべての関係性は、美しい)」。

「誰かと生きていくこと、関係性って、自分が生きることそのものだと思うんです」

家族や恋人、ビジネスパートナーとのつながり。自分を取り巻く関係性はさまざまだが、法律や制度、慣習によって自由に選べなかったり、評価されたりする。それっておかしいよねと、大谷は考える。

「例えば結婚という枠組みで考えると、相手が同性であれ異性であれ本来は同じように祝福されるべきだし、最近では二次元のパートナーをもつ人もいる。本人の意思でそれを選ぶんだったら、その幸せな気持ちはほかの人たちに侵害されるはずのものじゃないと思っていて」

REINGのプロダクトには、性別や国籍を超えて使う指輪、人間とペットなど種族を超えて使う指輪、生死さえ超えてつながる指輪など一つひとつにテーマがある。あらゆる関係性を慈しみ、多様性に美しさを見出す彼女のマインドは一体どこから生まれたんだろう。

この景色を見られるなら、何でもする

幼い頃から英会話教室に通っていた大谷は、そこでさまざまな人種の先生と出会う。印象に残っている体験は、彼女が小学校1年生のとき。

「初めて黒人の先生と握手した時、びっくりしたんです。黒人の方って、明らかに自分と見た目が“違う”じゃないですか。でも、手のひらは白くて“同じなんだ”と思ったんです」

そんな出会いを繰り返して、いつしか多様性を当たり前のこととして受け入れるようになっていく。大谷いわく「両親もスーパーフラットな人たち」。だが、「女性として生きること」についてはいつも九州の田舎特有の価値観にぶつかり、大学は東京に出ることを選んだ。

大学卒業後は「ずっとチーム戦で戦ってきたので、社会人になったら納得できるまでひとりでやりきりたい」との思いから、インターン先の広告代理店に就職する。チーム戦というのは、高校生時代に明け暮れた吹奏楽部での活動だ。福岡の強豪校でサックスを担当し、3年次には全国大会に出場している。

「1、 2年目は九州大会まで行けたんですけど、3年目の全国大会の景色は全然違ったんですよ。努力してこの景色を見られるなら、何でもできるなって思った」

プランニングとプロデュース、契約から実施まで一貫してひとりでできるようになりたい。“最強”に自立した人間になりたかった。

日本じゃ無理だろうなって思ってた

就職して5年、「ある程度やりきった」大谷はNEWPEACEへの転職を決断する。

社会人4年目のとき30歳以下の若手が参加できるコンペ、通称ヤングスパイクスにエントリーしてブロンズを受賞した。その時の課題が男女の賃金格差問題だった。

「社会課題の解決にはクリエイティブの力が輝くんじゃないかって思い始めて。でも、社会は基本的にお金で動いているし、プロダクトが売れなきゃ意味がない。自分が考えていることをやるには、日本じゃ無理だろうな」

そんな大谷に運命的なタイミングで声をかけたのが、NEWPEACE代表の高木新平だった。

「会って話したら、こんなに自分と同じことを考えてる人がいるんだなと思って、その日のうちに“行きます”って連絡しました」

REINGのようなプロジェクトに関わりたくて転職したのか訊ねると、初めからそうではなかったらしい。

「REINGを立ち上げるとき人がいなくて、“やりたいです”って名乗り出て。やると決めてからは知らないことは徹底的に調べて、自分の考えを深めていって、そうするうちに、これまで自分が生きる中で感じてきた違和感が解けていく気がして。これが私のやりたいことなんだ、と思うようになったんです」

自分だったらこういうものを作りたい。既定の路線とぶつかることもあったが、「でないと、わたしがやる意味がない」。大谷は、自他ともに認める憑依力の強い人間だ。

「自分がやりたいことが先に来るよりも、目の前にある何かをとことん知ろうとしたり考えたりするのが好きで。好きなことを探すより、目の前にあることを“好きになる力”が強いのかもしれない」

一つひとつの関係性を、
大事に生きたい

もしREINGがなかったら何をしていたか? 聞けば抹茶のビジネスを立ち上げようとしていたそうだ。

「禅の考えが好きなんですけど、“逢茶喫茶 逢飯喫飯(ほうさきっさ / ほうさきっぱん)”という言葉があって。目の前に出されたものを、ただ味わい、楽しみなさい、っていう。簡単なことのように思えて、難しいなって思ってて」

忙しい現代生活においては、自分と向き合う時間はおろか他人と向き合う時間を作ることも難しい。食事の時間にもテレビを見たり携帯を見たり、ついつい情報摂取に気が取られてしまう。

「根底にある考えはREINGと一緒で、抹茶そのものを作りたいわけではなく、それを通じてどう豊かな心や時間をつくれるのかをずっと考えていました」

抹茶と指輪。まったく関連がないようでいて、そこには一貫したビジョンがある。
将来どうなりたいか訊ねると少し困った様子で、しばらく考えてからこう答えた。

「家族との関係性、会社での関係性、仕事で出会う人との関係性、一個一個をちゃんと自分の心で感じて、その時間をいつもより大事にできたなって思えたら、今日も生きててよかったってきっと思えるから。将来っていうより一日一日そういう日を積み重ねていきたい。今はそういう風に思っています」

すべての関係性は美しい。そう、REINGのコンセプトを体現する生き方をしたい。
とはいえ、美しい関係性とはの答えはまだ出ていないという。

「私の中での仮説は、自分の意思がつなぐ関係性。自分が選ぶ、選択することがポイントだと思っていて、自分が選ぶもの全てが美しいんじゃないかな」

これからも大谷は自分に、そして社会に問い続けていくのだろう。

 

(写真:小野真彰 取材協力:6curry

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