諦めの悪さで、苦労から快感につきぬける。 / 思い出野郎Aチーム 斎藤録音
#014

諦めの悪さで、
苦労から快感につきぬける。
思い出野郎Aチーム ギター担当斎藤録音

「あなただけの履歴書を、つくってみてくれませんか?」
Proff Magazineでは、履歴書の自由なあり方を考えるために、さまざまな分野で活躍する方にそんなお願いしてみることにしました。
今回お願いしたのは、バンド「思い出野郎Aチーム」のギタリストであり、出版社に勤める児童書の編集者でもある斎藤録音さん。
15回連続でバイトに落ちるという挫折、「顔がそれっぽいから」という理由でのバンド加入、会社員とギタリストの両立にもがく日々……。斎藤さんの履歴書から見えてくる、“諦めなければ、快感が待っていると信じる“生き方とは?

ギタリストで、児童書の編集者。

 

-斎藤さんはバンド「思い出野郎Aチーム」のギタリストとして知られていますが、今日は音楽についてではなくて、履歴書に関する取材なんです。

斎藤録音さん(以下、斎藤):履歴書に関する取材なんて受けたことないですね(笑)。実は僕、履歴書に空白があるんですよ。

-そうなんですか? それは知らずに、取材のお願いをしてました。

斎藤:そうなんですよ。高校に行ってなくて。

-そのあたりもあとで聞かせてください。まずは、最近の活動を聞きたいんですけれど。斎藤さんはバンド「思い出野郎Aチーム」のギタリストとして活動してますね。

斎藤:そうですね。でも最近はコロナの影響で、ライブは中止になってしまって。所属しているレーベルである「カクバリズム」主催のオンラインイベントがあったので、それに出たりしてます。

-ライブができないジレンマはありますか?

斎藤:ありますね。もう、ライブをしてたのが遠い過去の事みたい(笑)。次ライブしたら泣いちゃうかもしれないですよ。「でっけえ音出てる」って、それだけで感動しちゃいそうです。

-ライブができないぶん、別の活動を?

斎藤:最近は、コロナの影響で苦しい状況にある身近な音楽施設やスタッフさんへの支援を目的に、「ソウルピクニックファンディング」っていうクラウドファンディングをやったんです。そしたら、ありがたいことに1200人ぐらいが、計600万円を寄付してくれました。そのリターンとして、特別仕様の7インチレコードと、不定期刊行している新聞「思い出スポーツ」の特別号を作ったりしてます。7インチの曲は、通常版シングルとして一般発売もされます。

-音楽活動と並行して、会社員としても働いているそうですね。

斎藤:はい。新卒で入った出版社で、児童書の編集をやってます。企画をして、会社に提案して、作家さんとやりとりしながら何度も作り直して。そんな仕事をしてますね。

-平日は会社員として働き、土日でバンドの活動をしていて。休みってありますか?

斎藤:休みはそんなにないですね。ライブがあった週は特に。でもまぁ、オンとオフっていう概念もあまりないです。会社の仕事が終わってから好きな音楽を聴く時間も、オンなのかオフなのかわかんないですから。この生活はあんまり苦じゃないですけど、歳を重ねるにつれて、身体は疲れるようになりましたね(笑)。

 

「ギターやれそうな顔だから」でギタリストに。

 

-「思い出野郎Aチーム」は、メンバーの皆さんが多摩美術大学の学生だった時に結成したんですよね。

斎藤:そうですね。僕が1年生の時に、飲み仲間で結成して。僕は「ギターやれそうな顔だから」と、ギターを任されました。

-顔で?! それまでギターの経験はあったんですか?

斎藤:ないです。ウクレレは弾いてましたけどね。そもそもギターを持ってなかったから、最初は部室に転がってるのを借りて弾いてました。もちろんバンドを結成することも初めてだったので、 楽しかったですね。

-卒業してもバンドを続けることにしたのは、いつか音楽で食べていきたいって気持ちがあったからですか?

斎藤: うーん、他のメンバーはわかんないですけど、あまり僕はそこまで考えていなかったです。みんなで話して「続けよう」ってなったから、「よし、続けられる限り続けよう」っていう感じでした。それでもし駄目になっちゃったら考えればいいかなって。

とはいえ音楽で食べてはいけなかったので、みんな就職して、合間でなんとかやっていこうと。

-斎藤さんも、やりたい音楽活動を続けながら食べていくために会社員になったんですか?

斎藤: お金のために会社員なったわけじゃなくて、単純に、音楽と同じように、本作りも好きだったんです。だから、「音楽か、会社員か」って、あんまり絞る必要はないのかなって思ったんですよね。仮にお金がたくさんあっても、編集の仕事はやりたいと思いますし。

-実際に両立してみて、大変じゃなかったですか?

斎藤:いやぁ、最初の一年は結構大変でした。2015年にはアルバムをリリースできて、今でこそバンドも波に乗ってきたけど、両立を始めた当初は売れてなかったので。みんな会社の仕事も忙しいのでくたくたになって、深夜からスタジオに入る、みたいな日々ですよ。 確か最初のシングルをレコーディングした時は、徹夜になっちゃって、そのまま会社に行った覚えがあります。

-そんな大変な日々を送ることができたのは、どうしてだったんでしょう。

斎藤:快感を味わいたくてやってましたね。苦労を乗り越えて、「曲ができたー!」っていう瞬間は、めちゃくちゃ快感ですから。今はもう徹夜はしたくないですけど(笑)。

 

諦めなければ、快感が待っている。

 

-斎藤さんが働くうえで大事にしていることってありますか?

斎藤:そうですね……月並みですけど、「諦めないこと」かな。

-思い出野郎Aチームの曲『ダンスに間に合う』でも、「諦めなければ(ダンスには間に合う)」って歌詞がありますね。

斎藤:そうそう。さっき言ったみたいに、バンドが売れてない時は会社員との両立がきつかった。それは他のメンバーもそうだと思うんですけど、そこで諦めなかったからチャンスがやってきて、人気が出てきた。諦めたらそんなチャンスはつかめませんからね。

今はダメでも、チャンスはいつ来るか分からないから、やり続ける。もしかしたらチャンスは来ないかもしれないけど。それでも諦めずにやり続けることが大事だと思ってます。

-諦めなければ、得られるなにかがあるんでしょうか。

斎藤:やっぱり、快感かな。みんなで煮詰まった時間を乗り越えて、想像を超えるような曲が完成した時のあの感覚は、ちょっと忘れられないです。大変な思いをしたぶんだけ、曲が完成したときにはたまらない快感を味わえるので、「あぁ、また作ろう」って、それまでの苦労を全部忘れられる。諦めちゃうと、その快感は得られないじゃないですか。

 

バイトに15回連続で落ちた。

 

-諦めないことが大事と思ったきっかけはありますか?

斎藤:最初に少し言いましたけど、僕、履歴書に空白期間があるんですよ。学校が嫌いだったから、中学校を卒業した後、高校にいかなくて。で、バイトの面接を受けたんですけど、15回連続で落ちたんですよね。たぶん性格の問題だったと思うんですけど。

-性格の問題。

斎藤:履歴書に変なこと書いてたかもしれないです。自己PRで、文学っぽい小難しいことを書いて、変なアピールをしようとしてたような気がする。それを読んで、相手は「こいつはだめだ」って思ったのかもしれないですね。

-15回連続で落ちたのはショックでしたか?

斎藤:当時は落ち込んでましたね。 「そんなにダメなのかな、自分……」って。 まだ若くて選択肢もあまり知らなかったので、「ムツゴロウ王国に入りたいな」とか思ってました。

-ムツゴロウ王国、ですか?

斎藤:短絡的ですけど、生き物が好きだったし、テレビで見て楽しそうな感じがしたんでしょうね。「自然や動物に囲まれて生きていこう」みたいに、漠然と考えてたんですけど。何を目指せば良いかもわからないし、自分が生きていく方法が思いつかなかったです。本当に暗黒時代。

-それが、16回目でバイトに受かったんですね。

斎藤:正確には、声をかけてもらえたんです。近所のタイ料理屋のおじさんが、「君、バイトどうするの。うちはいる?」って言ってくれて。そしたらそのおじさんがまた「近くの 居酒屋が人足りないからやりなよ」って誘ってくれて、掛け持ちするようになり。

そのうちに、本が好きだから本屋でバイトしたいと思って履歴書を出したら、ついに受かったんですよ。たぶん、性格が変わり始めてたんですよね。履歴書に変なことを書かなくなったんだと思います。

-諦めないでいたら、やってきたチャンスをつかむことができたんですね。

斎藤:まさに。それで「俺、バイト受かるんじゃん」と自信もついたので、「じゃあ大学行こうかな」っていうことで、高卒認定試験を受け、大学受験をして、多摩美に入りました。そのあとは、さっき話した通り。だから、なんとかなるんだなって思いますね、今では。

 

履歴書の空白も無駄じゃない。

 

-バイトに受からなかった期間って、履歴書では空白になると思うんですが、その時期は斎藤さんにとってどういう意味を持ってますか?

斎藤: 大学入学したときくらいまではコンプレックスでした。「こんな経験最悪だわ」って。 人にも隠してたし。

でも大学でその話を友達にすると、「なにそれ面白いね!」って言われたんですよ。それで「あ、これ面白いんだ」って気づいて。それから人に話せるようになりましたね。今だってこうして取材されて、取り上げてもらえるわけじゃないですか。だから、まぁ無駄じゃなかったんだなと。

-履歴書の空白も無駄じゃない。

斎藤:そうですね。一般的な履歴書で書けることなんてわずかなので、むしろそこには書かれてないことが大事なんだと思います。その人が苦手なとことか。僕も結構、客観的に見ても「他人と比べて劣ってるな」と思うことが、たくさんあります。

-どんなことですか?

斎藤:バンドをやってて言うのもどうかと思うんですけど、人と協力して何かを進めることが苦手なんです。空気を読めないというか。曲について意見を出しても、バンドのメンバーに、「なに言ってるかわかんない」って言われるときがありますからね。

会社でも、空気を読んで、いいタイミングですっと誰かに手を差し伸べることが得意な人を見ると、凄いなって。「それに比べて自分はできないな」って、凹むことがよくあります。

ただ、そんな自分だからこそ、みんなとは違う角度から思ったことをストレートに言える、ということに最近気づいてきましたね。そういう意見があるからこそ、作品の質が予想の範囲を超えてくる。それが一番大切です。だから、僕みたいな存在がいてもいいのかなと、前向きに考えるようにしています。

 

音楽と児童書、2つの活動を掛け合わせたい。

 

-最後に、これからのやっていきたいことはありますか?

斎藤:もうちょっと、音楽と本が重なる仕事をしたいです。 ありがたいことに、バンドの名前が広まってきたので、作家さんとの話のなかで、僕からは言ってないのに、たまたま「思い出野郎Aチームってバンドが……」って話に出て、「すいません、僕メンバーなんです」みたいなことがたまにあるんです。

– ええ、そんなことあります?!

斎藤:ありますあります。相手には「えー?!」って驚かれます(笑)。

そんな状況になってきてることもあり、児童書作家さんにバンドとしてイラストをお願いするとか、逆に音楽を通して出会った人に児童書を書いてもらうとか、二つの活動を重ねられたらいいなって思ってます。それが、今の夢ですね。

(執筆・撮影:山中康司)

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