「もし、履歴書に自由に項目をつくって自分を紹介できるとしたら、どんなことを書きますか?」
Proff Magazineでは、履歴書の自由なあり方を考えるために、そんな質問をさまざまな分野で活躍する方に投げかけてみることにしました。
今回話を聞いたのは、コミュニティフリーランスとして活動する長田涼さん。
「尊重しあえる関係性を、世の中に増やしたい」と語る長田さんは、自らの生き方について、どんなことを語るのでしょうか。
コミュニティを生業とするフリーランス
-長田さんは「コミュニティフリーランス」として活動していますね。聞きなれない肩書きですが、「コミュニティフリーランス」とは?
長田涼さん(以下、長田):その名のとおり、「コミュニティを生業とするフリーランス」です。ざっくりと言えば、コミュニティをメンバーにとって居心地のいい場にする仕事ですね。
-具体的にはどんな仕事を?
長田:いま僕は5つのコミュニティに関わっています。
ひとつめは、「Wasei Salon」。「これからの“働く”を考える」をテーマにすえて2018年4月に始まったオンラインサロンで、現在は約100名のメンバーが所属しています。
メンバーはコミュニティプラットフォーム「OSIRO」で悩みを相談したり、おたがいの活動を応援しあったり、興味がある分野でイベントを開催したりしていて。僕はコミュニティマネージャーとして、メンバー同士のコミュニケーションを促進しています。
ふたつめが、「T4 TOKYO」という、渋谷にある複合型卓球カルチャースペースのコミュニティ。ここでは卓球を通じたコミュニケーション設計・コミュニティづくりをお手伝いしています。
みっつめが、「渋谷をつなげる30人」。渋谷を拠点に活動する企業、行政、NPO、市民など、いろいろな立場の方々が集まって、「渋谷にとって良いことはなにか」というような議論をしながらプロジェクトを生んでいく、まちづくりのコミュニティです。
よっつめが、「NPO 法人グリーンズ」。ソーシャルデザインやサステナビリティについての情報発信や場づくりに取り組むNPOで、「コミュニティの教室」というスクール事業の運営だったり、グリーンズ が企業向けに提供するオンラインコミュニティやイベントのサポートをしています。
最後に、独自のポイントを作ってファンに配れる無料アプリ「mint」で、ファンとサービスとの関係性をより良いものにするためのサポートをしています。
あとは、個人の活動としてコミュニティマネジメントについてメディアで発信したり、イベントで登壇したりしていますね。
-「コミュニティマネジメント」とひとくちにいっても、活動は多岐にわたるんですね。
長田:そうですね。コワーキングスペースのような「場」を持つ人など、いろんなコミュニティーマネージャーがいますけど、僕はどちらかと言うと、SlackやFacebook、LINEなどのコミュニケーションツールを使った、オンライン上でのコミュニティ形成を得意としています。
そうしたオンラインでのコミュニケーションと、イベントや飲み会などのオフラインでのコミュニケーションを組み合わせて、メンバーにとって居心地のいい場をつくることに取り組んでいるんです。
コミュニティとは、「尊重しあえる関係性の集合体」
-「コミュニティ」という言葉の定義はあいまいですが、長田さんにとって「コミュニティ」とは?
長田:僕はよく、「尊重しあえる関係性の集合体」っていう言い方をしています。
たとえば、ただ100人の人が集まっただけで、関係が結ばれてない集合体は「コミュニティ」とは呼びたくないんですよね。僕が考える理想の「コミュニティ」って、1対1の関係性が集まったもの。しかも、しっかりお互いのことを尊重してコミュニケーションを取りあう人と人の集合体を「コミュニティ」と呼んでいます。
-ただ関係性があるだけじゃない。
長田:関係性も、良いものとそうでないものがあると思っていて。僕が良くないと思う関係性って、社会や会社のルールにしたがってつくられた集団に多いと思うんですけど、個人が尊重されてない。そういう関係性って、すごいしんどいなと。だから個人が尊重しあえる関係性をつくりたいんです。
-尊重しあえる関係性って、たとえばどういうことなんでしょう?
長田:SNSと比べたらわかりやすいんですけど、よく炎上って起きますよね? ある投稿に対して相手を否定するようなコメントをするのって、まったく相手を尊重できていない。そうじゃなくて、相手の意見を尊重し合いながらコミュニケーションを取ることが大事だと思っています。
仮に相手と反対意見を持ったとしても、あくまで「僕はこう思うよ」程度にしておく。正解がない今の時代だからこそ、僕らは尊重したコミュニケーションを取って、関係性を構築していかないといけないと思うんです。わかりやすく言うと、相手を受け入れ合う関係性かもですね。
-なぜ尊重しあえる関係性が大事だと?
長田:ひとことで言ったら、関係性は人生の豊かさに直結するものだと思っているからですね。
イギリスでは「孤独担当大臣」っていう役職ができるくらい、孤独って心身にとって良くない。どれくらい良くないかって言うと、1日タバコを20本吸うぐらい害があるそうです。孤独で死に繋がるケースもあるし。
逆に、「今の人生が豊かだ」と思ってる人たちって、自分が所属していたいと思えるコミュニティにひとつは属してるんじゃないかな。それはオンラインサロンのようなものじゃなくても、会社かもしれないし、家族かもしれないし、友人関係かもしれないし。
-なぜ尊重しあえる関係性があると、人生が豊かになるんでしょう。
長田:「自分は受け入れられてる」っていう感覚を持てるからじゃないですかね。自分がここにいる意義を自分で見出して、居場所を持つことができる、というか。受け入れられている感覚がないときって、つらいじゃないですか。会社でやることがなくて「なにをすればいいんだろう」みたいなときって。
-つらいですね。
長田:でも関係性のなかで役割とか、役割と言うほどではないけど、自分の存在意義を見出すことができると、居場所の感覚を持つことができる。だから「メンバーにとっての居場所であること」は、オンラインコミュニティだろうと会社だろうと家族だろうと、コミュニティづくりに関わるときには意識していたいなって思いますね。
-メンバーにとっての居場所をつくるために、心がけていることはありますか?
長田:いろいろありますけど、一番はコミュニティマネージャーが主役にならないことですね。メンバーが主役で、コミュニティマネージャーはその環境をつくる存在なわけで。自分がどうやってメンバーと仲良くなれるかということより、「あのメンバーとあのメンバーがどうやったら仲良くなれるのか」ってことを考えています。
それも、メンバー同士を露骨に紹介することはしなくて、自然としゃべりやすいような場になるにはどうすればいいのかを工夫する。
-あくまでメンバーの主体性を尊重して。
長田:そう。逆に一番やってはいけないのは、僕は無視だと思っていて。無視された人は「もう発言するのやめよう」と思ってしまうじゃないですか。主体性がそこなわれてしまう。
特にオンラインのコミュニケーションだと、何のリアクションもないコメントって、みんなから見えてしまうんですよね。だから無視されるとダメージが大きい。それが絶対に起こらないように、コメントなり「いいね」なり、なにかしら反応するようにしています。「ちゃんと見てるんだよ」っていう意思表示が、「自分は受け入れられてる」っていう感覚につながると思っているので。
尊重しあえない関係性に、生きづらさを感じてきた
-長田さんが尊重しあう関係性が重要だと思ったきっかけは?
長田:孤独っていうと大げさですけど、尊重しあえない関係性のなかで生きづらさを感じた経験は何度かありましたね。まずは小・中学生の時。僕、当時は関係性をつくるのがめっちゃ下手だったんです。
-今の長田さんと接しているとそんな感じがしないので、意外です。
長田:いや、当時はめちゃくちゃシャイで、どうしても他人と打ち解けられなかったんですよ。クラスでは輪の中心に入れなかったタイプで、目立っている人をうらやましいなと思ったりして。
「まわりによく見られたい」という気持ちがあったんでしょうね。だから自意識過剰になっていた。当時はそうやって、自分を守るのに精一杯だった気がします。
-どうして自意識過剰に?
長田:親の影響はあると思います。教育熱心な親だったこともあって、当時は「親を安心させること」が一番のモチベーションだった気がします。「親を安心させるために勉強しなきゃ」というプレッシャーがすごくて。それが本当にストレスだったんですよね。ストレスのあまり、手元にあった鉄製の30センチ定規で、気付いたら腕を削って血が出ていたことがありましたよ。
-ええ、腕を?
長田:今でもうっすら傷跡が残ってるんですけど。
今思い返せば、当時は「こう生きなきゃいけない」っていう義務感が強くて、自分の想いを押さえつけて、親やまわりの期待に沿おうとしていた。それでストレスを感じていたんでしょうね。
-尊重しあう関係性とは逆の状況にあったわけですね。
長田:そうです。だけど僕はその状況を、スポーツで打破できたんですよ。小学生の終わりごろ、たまたまテニスをしている人たちを見かけて、「めちゃくちゃ面白そう!」って思って。初めて自分で親に意志を口にできたのが「テニスがしたい!」という言葉でした。
それで、テニススクールに通うようになって、どハマりしたんです。テニスをしているうちに、自分の想いも口にできるようになって、友達が自然と増えていって。一緒に練習する仲間もそうだし、対戦するライバルもそうだし。あんなにシャイだったのに、テニスを通してだったらコミュニケーションがとれたんですよね。結果としてテニスは大学の途中まで、12年ぐらい続けました。
-学校でも家庭でも、自分の意思を抑えつけていたのが、テニスの仲間とは尊重しあえる関係性を築けた。
長田:だから、コミュニケーションのきっかけとして、スポーツの可能性を感じて。大学生のころにスポーツを通じて交流する学生団体を立ち上げたり、社会人になってからもスポーツに関わる別のコミュニティを立ち上げ、運営していました。
コミュニティには200人くらいの人が参加して、東京だけじゃなく大阪と仙台と福岡にも支部ができたりと、けっこう広がってきて。それが僕のコミュニティマネジメントの始まりですね。
「なんで、そんなに他人の評価が気になるんですか?」
-じゃあ、それで「こう生きなきゃいけない」っていう義務感から解放された。
長田:そう思ってたんですけど、その義務感って、染み付いてちゃってたんですよね、自分のなかに。
大学卒業後は、大手アパレル企業、スポーツイベント会社、ITベンチャーを経てフリーランスとして独立したですけど、独立前の会社員時代って、「狭い箱に閉じ込められてる感覚」がありました。
-狭い箱に閉じ込められてる感覚。
長田:僕としては、社会人になったら夢や目標を持って働きたいし、働けるはずだと思っていたんです。でも、会社にいるとどうしても、「夢や目標」とは別のことを優先しなくちゃいけないこともあって。会社の利益を第一に考える必要があったりとか。
それはそれで大事なことだと思うんですけど、僕にとっては義務感になってしまって。上を向いたら目の前に天井があるような、狭い世界に入れられた感じがあったんですよね。だから当時は「会社に行かなくちゃいけない」っていう義務感で働いてました。
「しんどいな、この世界」と思っていましたよ。でも一方で、「これは社会人として仕方ないことなんだな」と納得させている自分もいました。
-そのしんどさは、会社以外の人にも相談できなかった?
長田:できなかったですね。しんどさを感じているけど、自分が仕事ができないだけなんじゃないかっていう自己嫌悪みたいな気持ちもあったので。
あと、SNS ではプライベートでやっているコミュニティマネジメントの活動を投稿していたので、めちゃくちゃキラキラしてるとまわりから思われていたんですよ。「長田は仕事も楽しくやってんだろう」と。だから余計、「本当はしんどい」なんて、人に言えなかったです。
-「狭い箱に閉じ込められてる」ようなしんどさから解放されたのは、なにがきっかけで?
長田:Wasei Salonのメンバーの存在が大きいですね。Wasei Salonは「それぞれ本気で追求したいことを追求し、本気で応援し合うサロン」として、2018年の4月にスタートして、僕も21人のメンバーのひとりでした。
しんどさから解放されるきっかけになった日のこと、鮮明に覚えています。
ある日、午前から会議があって。会社のその後の方向性について話す大事な会議だったんですけど、僕、一切前のめりに参加できなかったんですよね。会議中話を聞きながら、「ここで話されていることは他人ごとだ」みたいな気持ちになってしまっていて。「こんな気持ちになってしまうのだったら、僕はもうこの会社にいるべきじゃないな」って悟ったんです。
会議が終わったあと、すぐに一人で近くのマクドナルドに駆け込んで、スマホでWasei Salon のSlackに、そのときあったことと、ずっと抱えていた「狭い箱に閉じ込められてる感覚」のことを、バーっと書き込んだんですよ。2000文字くらい。
-かなりの長文で。
長田:そしたら他のメンバーたちが、同じ文量ぐらいの返事をくれて。なかには、「飲みに行って話そうよ」みたいな人もいて。いろんな意見をもらったんですけど、みんな言うのは「長田がしたいことをするべきだ」ということだったんです。
-特に印象に残っている言葉はありますか?
長田:そうだなあ…Wasei Salon のオーナーの鳥井弘文さんから、「なんで、そんなに他人の評価が気になるんですか?」って言われたのは覚えてますね。それは飲み会の席で。
僕は本当はコミュニティマネジメントを仕事にしたかったんですけど、「まわりにそういう人がいない」とか言って、言い訳をしてたんでしょうね。それを聞いた鳥井さんが「まわりのことより、自分の意思を大事にしたほうがいいんじゃないのか」と。
その言葉を聞いて、「そっか、僕はまわりを気にしてたのか」ってハッとして。テニスを通じて「こう生きなきゃいけない」っていう義務感はなくなったはずだったのに、まだ残ってたんだと。
-どうしてWasei Salonのメンバーには、しんどさも打ち明けることができたんでしょう?
長田:当時のWasei Salonには、色々な分野で活動する21人のメンバーがいたんですけど、純粋 に尊敬できるしもっと会話したいし、一生繋がっていたいって思えるような人たちだったんですよ。こんな尊敬できる人たちにだったら、抱えてるしんどさも言えるな。いや、言わなきゃいけないな、とすら思った。
-尊重しあえる関係性がそこにあった。
長田:そうかもしれないですね。
そんな経緯があって、「自分はコミュニティを仕事にしよう」と決心して、上司に辞める意思を伝えて独立をしました。仕事は一切決まってなかったですけど、Wasei Salonのメンバーが「大丈夫」って言ってくれるなら、俺は大丈夫のはずだ、みたいな、よくわからない自信があって。
-尊重しあえる関係性によって人生が豊かになる、ということを、長田さん自身が経験してきたんですね。
長田:はい。僕自身がそうだったから。今度はコミュニティフリーランスとして、世の中にそういう関係性をふやしていきたいんです。
履歴書には「大事な価値観」を載せたい
-さて、長田さんは履歴書に加えるとしたらどんな項目を?
長田:一緒にお仕事をする人に知ってほしいことは、今日お話ししたような価値観だなと思いました。だから「大事な価値観」っていう項目を加えたいですね。
たとえば、「義務感で行動するのがあまり得意じゃない」とか、「自分の『好き』を大事にした選択をしていきたい」とか「行動して学ぶタイプの人間」とか。そういった、経歴じゃ見えない部分をしっかり書きたい。
あと、なぜそう思うのかというストーリーも書けたらいいですね。読む方も「なるほどこういうことがあったからこう思うのか」という経緯がわかると、フィーリングが合うか合わないかもわかって、一緒に仕事がしたいな、という判断ができると思うので。
>長田さんのプロフ
コミュニティマネージャーを、夢のある仕事にしたい
-最後に、長田さんがこれからやりたいことは?
長田:僕がやりたいのは、国内のコミュニティマネージャーやコミュニティの価値を上げることです。
コミュニティを仕事にしてる人間って、まだまだ日本だと少なくて。でもアメリカだったら年収一千万もらえるような人気の職業で、日本でも間違いなく今後ふえていくし、ふやしていきたい。
でもまだコミュニティマネージャーのキャリアパスって、わからないじゃないですか。「コミティマネージャーをやったら、キャリアの変更がききません」だと、仕事をするのも勇気がいる。そうじゃなくて、「コミュニティマネージャーのスキルがあれば、そのあといろんなキャリアに転換できるよ」っていうふうに、可能性を伝えていきたい。楽しくて夢のある仕事にしていきたいんですよね。そのためにも、コミュニティの価値の数値化もしたいし。
なぜコミュニティマネージャーをふやしたいかと言えば、さっき言ったようにコミュニティを通じて人生が豊かになる人を一人でもふやしたいと思ってるから。自分一人だと限界があるけど、コミュニティをつくれる人がふえればふえるほど、自分が目指す状態につながっていくんです。
(執筆・撮影:山中康司)