キャリアを立ち止まると、人はカラフルになる。 キャリアブレイク研究所・北野貴大の“人生の小休止をおもしろがる”生き方
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キャリアを立ち止まると、人はカラフルになる。
キャリアブレイク研究所・北野貴大の“人生の小休止をおもしろがる”生き方
キャリアブレイク研究所北野貴大

「キャリアブレイク」という言葉が、注目されています。

「キャリアブレイク」とは、一時的な離職や休職期間のこと。日本ではネガティブにとらえられることが多いそうした期間は、欧米では肯定的にとらえられ、行政や会社が支援する制度もあるのだとか。

そんな「キャリアブレイク」という文化を日本に輸入しているのが、北野貴大さん。2022年に「一般社団法人キャリアブレイク研究所」を立ち上げ、当事者向けの冊子「月刊無職」の発行や、学び合いの場「むしょく大学」の運営、無職の方は無料のイベント「無職酒場」の開催など、ユニークな企画を次々に打ち出しています。

無職・休職者向けの活動というと、困難な状況にある人を支援する、いわゆる「福祉」をイメージしそうになります。しかし北野さんは、「福祉の活動ではない」と言い切るのです。

なぜ、北野さんは「キャリアブレイク」の活動を始めたのか。その背景にある、“人生の小休止をおもしろがる”生き方とは。

無職や休職は「人生に箔がつく」?

-キャリアブレイク研究所って、どんなことをしてるんですか?

北野:僕らは「文化輸入事業」だと思ってます。

-文化輸入?

北野:現代って、これからどうやって生きていくのか、答えがない時代になっていますよね。だからこそ、欧州にある「キャリアブレイク」の文化がすごく大事なんじゃないのかなって。

-なるほど。「キャリアブレイク」って、どういう文化なんでしょう?

北野:一時的な離職や休職を肯定的に捉える文化です。日本では離職や休職って「経歴に傷がつく」って言われるじゃないですか。つまり「ブランク(空白)」ととらえられてる。

-「履歴書の空白」っていう言葉もありますしね。

北野:はい。一方欧州では、「ブランク(空白)」じゃなくて「ブレイク(小休止)」ってとらえられてるんですよ。

一時的に休んで、旅をしたり子育てをしたり、心身の回復をしたりする文化があって。だから、離職や休職によって「人生に箔がつく」人もいると言われてるんです。

-「経歴に傷がつく」と「人生に箔がつく」。ほとんど真逆のとらえかたですね。

北野:そうなんです。日本では、高度経済成長期から、キャリアの階段をストレートにのぼることが良いことだとされてきましたよね。反対に、立ち止まったり、横道にそれることは良くないことだと。

-僕も無職の経験があるので、よくわかります。その階段を踏み外した自分は落伍者だ、っていう気持ちになっていました。

北野:そうやって自信を無くす方がたくさんいるんですよね。だから僕は、キャリアブレイクを選択肢のひとつとして提示したいんです。

 

大阪で開催された「無職酒場」の様子

 

キャリアブレイクをめぐる循環をつくる

-具体的にはどんなことを?

北野:無職・休職中の人たちに「月刊無職」っていう情報誌を届けたり、「むしょく大学」っていう活動の場をつくったりしてます。あとは、法政大学大学院の石山恒貴教授や片岡亜紀子先生にアドバイスをいただきながら、キャリアブレイクの価値について整理しています。

そういう取り組みをしてるうちに、居酒屋とか旅行代理店が、「面白いからコラボしよう」って言ってくれるようになったんですよ。それで、旅の企画をつくったり、シェアハウスのコンセプトを考える活動をしたりとか。

-へえ!どんどん取り組みの輪がひろがっているんですね。

北野:ゆくゆくは社会的なインパクトにもつなげていきたいですね。国とか会社が、人生の転機を踏まえた制度や政策をつくるときに、お手伝いができたらいいなと。そうすると、当事者がより良いキャリアブレイクの期間を持てる気がして。

-たしかに。

北野:そんなふうに、当事者、支援する人、企業や行政…っていうふうに、キャリアブレイクをめぐるって活動がぐるぐる循環する。そんな動きをつくろうとしてます。

キャリアブレイク研究所は、さまざまなステークホルダーが関わり合う循環をつくろうとしている。

 

「教育してあげないと」は、疑うことと同じ

北野:無職になると、疑われるんですよね。「大丈夫?」「なにか仕事紹介しようか?」って。

相手にとっては優しさから出た言葉だけど、当事者は自分の人生に疑いを向けられた気持ちになるんです。

-ああ〜。

北野: 自分の人生を疑われることって、 なんかじわ〜っと、その人の可能性を閉ざしていく感じがありません?

-そうですね。「自分はだめなんだなあ」って思ってしまったり。

北野:そうなんですよね。一方で、「疑う」の逆って、「信じる」じゃないですか。僕、「信じる」ってすごいパワーがあるなと思っていて。

僕ら、当事者の方に特別なサービスは提供してないんです。たとえば復職のための教育プログラムとかはやってなくて。

-最近だと「リスキリング」って言葉が注目されていますよね。復職のためのスキル向上の機会をつくったりはしていないんですか?

北野:基本的には、していないですね。「教育してあげないと」みたいなスタンスって、「疑う」と一緒だと思うんですよ。

-教育を提供することが、疑うことにつながる?

北野:「学びなおして、このスキルを身につけたら?」なんていわれたら、「自分はなにか足りてない存在なんだな」って思ってしまいません?

-ああ、たしかに。

北野:だけど、その人はもうじゅうぶん足りてるから。僕らができるのは、「もう足りてるんだよ」って、その人を信じることです。

-誰かから信じてもらえる経験が、その人にとって大きな意味を持つんですね。

北野: そう思いますね。でも、運営している僕らが信じてまわってるというよりは、触れ合った人が信じてあげればいいと思うんです。

信じてもらえた人が別の誰かを信じて、その人がまた別の誰かを信じて…僕らの関係ないところで、信じ合う関係が勝手にできていくので。

-活動を通して実際に変わった方もいますか?

北野:はい。言葉ってすごいなぁって、つくづく思いますよね。別に教育サービスを受けたわけじゃなく、ただ「キャリアブレイク」って言葉を知って、誰かに信じてもらえただけで、「救われました」とか、「グレーだった世界に色がつきました」って言ってくれる方がいるんですよ。

そうだよ、君たちはそのままで素晴らしいんだよって、心から思いますね。

「月刊無職」は、キャリアブレイク中の当事者や経験者たち自身が記事を執筆。購入者がコンビニ印刷して読むかたちをとっているのも、「当事者には他人と比較しやすいネット環境から離れたい人もいる」という配慮から。

無職になったら、どんどんユニークになっていった

-以前北野さんは「キャリアブレイク中の人って、めっちゃおもしろいんです」って言ってましたよね。

北野:そうそう、おもしろいんですよね〜。キャリアブレイクをひろめる活動を始めたきっかけも、社会福祉みたいな活動をやりたかったわけじゃなくて、単純におもしろいなと思ったからなんです。

-人助けをしたいから、というわけじゃなかったと?

北野:はい。誰かを助けたいとかじゃなくて、「ちょっと待って、キャリアブレイクっておもしろいじゃん!みんなみてよ〜!」みたいな(笑)。

-キャリアブレイクがおもしろいと思うようになったのは、いつのことだったんですか?

北野:実は2年前、僕のパートナーが心のバランスを崩したんです。彼女は商社に勤めていたんですけど、体育会系な環境で、キャリアウーマンみたいな働き方で。だんだん、なんだか白黒になっていく感じがして。

-白黒に?

北野:そうです。彼女らしさが失われていってるような気がしたんですよね。

その後、心身の療養のために離職したんですけど、しばらくしてちょっと表情がよくなったので、復職するのかな、と思ったんですね。そしたら、「しばらく無職でいるわ」と。僕は「おお!?いいけど…」みたいな。

-北野さんにとっても意外だったんですか。

北野:そうですね〜。そのときの僕にはない発想だったので、とまどいましたよね。 だから、なんでその結論に至ったのかを聞いてみたんです。

パートナーはイギリスに住んでた経験があるんですけど、あっちでは休学や無職、休職期間をとる文化が当たり前にあったみたいで。「心配する気持ちもわかるけど、私は大丈夫だから」と。

「じゃあ、僕にどうして欲しい?」って聞いたら、「放っておいて欲しい」って(笑)。

-なにかサポートして!じゃなかったんだ。

北野:僕も、「あ、そっか」みたいな。最初は、「ケアしなきゃ!」なんて考えてたんですけど、別に放っておいたらいいんだね、と。ちょっと意外な気持ちで。

-はい。

北野:で、本当に放っておいたら、パートナーがメキメキとユニークになっていくんですよ!「実はこんなことやりたかった」とか、「実はこんなこと考えてた」っていう「実は」の話が、どんどん出てきて。

-へー!

北野:ああ、なるほど、おもしろいなぁと思って。休職や無職の期間があると、こんなに人がユニークになることがあるんだ、って。

そのときから、このキャリアブレイクっていう文化を広めたら、世の中を少しカラフルにできるかもしれないぞ!って思うようになったんですよね。

キャリアブレイク研究所が整理した、キャリアブレイク中の5段階。かつての環境から解放されたあと、虚無感を感じる時期を経て、「実は◯◯がしたかった」と自分の本音に気づく時期がある。その後、理想と現実に折り合いをつけ、社会と接続していく…という段階を、多くの人が辿るのだとか。

周りの人に「カラフル」でいてほしい

-世の中をカラフルにできるかもしれない、とは?

北野:僕は世界を、自分が住み心地が良くて楽しい、カラフルな場所にしたいんですよね。

-北野さんがいう「カラフル」って、どういう意味なんですか?

北野:僕、大学は建築専攻で、「混住」を研究してたんですよ。「混住」って、いろんな人種とか性別とか年齢の人が混ざり合って住むことなんですけど。

-混住。

北野:たとえばアフリカって街が整理されてなくて、いろんな人がごちゃっと住んでるんですね。あとはアジアの途上国もそう。あの、いろんな人が混ざり合ってる感じが、僕はすごく好きで。

一方欧米では、都市計画によってまちを整理してきた歴史があります。住むゾーンと商業ゾーンをきっちり分けて、若者はこっち、おじいちゃんおばあちゃんはこっち!みたいなふうに、住む場所も分けていった。 そのせいで、街がおもしろくなくなっていった気が、僕はしていて。

-日本の都市も、都市開発によって整理が進んでいますよね。

北野:そうなんですよ。商業施設も、ユニークなお店から潰れていくんですよね。で、大手ファストファッションのチェーンがどんどん増えていく。

あと、人もそう。大学ですごい多様な研究をしていた人たちが、就活になると全員同じ志望動機を言い出す、みたいなことってあるじゃないですか。

-あぁ、わかるなあ。

北野:そういう光景を目の当たりにすると、僕の大好きだったカラフルな世界が 、どんどん白黒になっていく感じがするんです。それがもどかしくて。

ただ、白黒になるのもわかるんですよ。だって、ファストファッションの方が安いし、使い勝手もいいし。建築も、ハウスメーカーの家は便利だし。女性専用車両をつくるみたいに、トラブルを避けるために街を整理することも必要だと思います。

でも、それによってあのおもしろい、カラフルさがなくなってしまうのはなんとかならないかな、って思うんですよ。

-最近だと「多様性」って言葉をよくみかけますけど、「カラフル」はちょっと意味合いがちがう感じがしますね。

北野:そうですね。多様性を尊重するのも大事なことだと思います。でも、僕は「多様性を尊重しなきゃ」みたいな義務感じゃなくて、「おもしろい」でもっと乗り越えられるものがあるんじゃないのか、と思っていて。

誰かが秩序をつくって、多様性が尊重される環境をつくるのも必要。だけど、アフリカやアジアの街みたいに、いろんな人が混ざり合ってカオスだけど、なんだかおもしろい。そんな環境もあっていいんじゃないかなって。

-「月刊無職」も「無職酒場」も「むしょく大学」も、みなさん楽しそうですもんね。

北野:本当にそうで。実はキャリアブレイクの活動は、自分のためでもあるんです。身のまわりの人がカラフルでいてくれたら、僕の人生が楽しくなるんですよね(笑)。

 

履歴書は“むずかしおもしろい”

-今回プロフをつくっていただきましたが、履歴書について、思うことはありますか?

北野: 僕、髪の毛を伸ばすの好きなんです。ほら、この辺とかって見えます?(zoom上で、毛先を指さす)

-はい。毛先のほう。

北野:四年前くらいから髪を伸ばしてるので、この辺の髪の毛って、僕と 四年くらいの付き合いなんですよ。だから、前職でルクアっていう商業施設に配属されたばっかりの僕のことを知ってるんです、こいつは。

-はははは!年輪じゃないけど、髪の毛が時を刻んでるわけですね。

北野:そうそう。だからこいつに「今も頑張ってるよ〜」って話しかけたりしてて。 でもこの辺(生え際の方を指さす)は新米なんで、まだ僕が起業したことしか知らないわけです。

-うんうん。

北野:いまって、自己紹介イコール会社とか学校を伝えること、みたいになってるじゃないですか。でも、僕の髪の毛みたいに、経歴じゃないものがその人の人となりを伝えるよねって思うんです。

-あ〜、たしかに。

北野:自己紹介をイノベーションすることって、とっても“むずかしおもしろい”んじゃないかと思ってます。好きな名言を伝えてもいいし、最近はまっていることでもいいし、髪の毛だっていいわけで。

-自己紹介のイノベーションかぁ。おもしろいですね。

北野:キャリアブレイクの期間って、自分なりの自己紹介が生まれてくるんですよ。年齢を言ってみたけど、ちょっとちがうなとか、好きな本を言ったらしっくりくるなとか。いろんな表現を試していくなかで、好きな自己紹介が生まれてくるんです。

-誰かの自己紹介が変わっていく過程を見るのも楽しそうですね「前はこうだったのに、いまは違う自己紹介してるな〜」とか。

北野:そうそう!だから、僕はいつもみなさんの自己紹介を聞くのがおもしろいんですよね。

※記事中に使用した画像は、北野さんに提供いただきました。

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