人生や社会の閉塞感は、「図解」で越えていく。 図解総研・近藤哲朗の、“共通言語をつくる”生き方
#029

人生や社会の閉塞感は、「図解」で越えていく。

図解総研・近藤哲朗の、共通言語をつくる生き方
図解総研代表理事近藤哲朗

学校での国語の授業、
仕事の資料、
そして履歴書…

私たちが生きる社会は、あちこちで「文章」を読み・書くことをもとめてきます。それが苦でない人もいる一方で、「文章」が得意でない人にとって、生きづらさを感じるときもあるのではないでしょうか。

「図解という型をつくることで、世界の見え方が変わるんです」

そう語るのは、ビジュアルシンクタンク「図解総研」代表理事の近藤哲朗さん、通称チャーリーさんです。

「小さい頃から、文章が苦手だった」というチャーリーさんは、どのように図解と出会い、ライフワークにしていったのか。そして、世の中の分断を乗り越える図解の可能性とは? チャーリーさんの“共通言語をつくる生き方”について、話を聞きました。

「共通言語」としての図解をつくる

-チャーリーさん、今日はよろしくお願いします。シャツが幾何学的で、いかにも「図解の方」という感じで、素敵ですね(笑)。

近藤さん(以下、チャーリー):ありがとうございます。あんまり意識してたわけじゃないんですけど、図解っぽいですね(笑)。

-チャーリーさんは「図解総研」の代表理事をつとめていますが、「図解総研」ってなにをしてるんですか?

チャーリー:「図解総研」は、図解を通してさまざまな社会課題解決や新規事業創造を支援しているビジュアルシンクタンクです。具体的には、専門家との共同研究を通じて複雑な情報を簡潔に図解することで、コミュニケーションを円滑にする「共通言語」を発明してるんですよね。

-「共通言語を発明」…ちょっとまだピンとこないですが、どういうことですか?

チャーリー:様々な領域の人が対等な目線で話すことができるコミュニケーションツールのことを、「共通言語」というふうに僕らは呼んでいます。

たとえば、「チームのみんなで新しい事業を考えよう」となったときに、先輩社員はビジネス経験が豊富だから、たくさんアイデアが浮かんでくる。でも、新入社員はどう考えたらいいかわからないじゃないですか。

-はい。

チャーリー:つまり、知識のギャップがあることで、コミュニケーションが滞ってしまうわけです。だから、ビジネスモデルを図解したものがあれば、知識のギャップが埋まって、新入社員も議論に混ざることができますよね。

-なるほど! 異なる知識や価値観を持つ人たちが、同じ土俵で話すための「共通言語」が、図解なんですね。

チャーリー:そうです。そういう「共通言語」としての図解を専門家と協働でつくって、研修の教材やブランディング、社会課題解決、営業ツールなどとして活用いただいています。

あとは、研究結果を実際に社会で使われるものにするための広報的・実践的な活動である「社会実装」や、重要な業界レポートや公的な機関の提言等を図解し、より多くの人に届ける支援をする活動である「図解翻訳」にも取り組んでいますね。

ビジネスモデルの図解の例。複雑なビジネスの仕組みが視覚的に整理されています。(画像提供:図解総研)

 

「型」をつくると、世界の見え方が広がる

-そもそも、チャーリーさんが図解に注目したのはなにがきっかけだったんですか?

チャーリー:僕、小さい頃から文章が苦手だったんですよ。小学校のとき、作文を書かせる授業ってあるじゃないですか。あれ、一文字も書けなかったんですよね。何を書けば良いのかわからなくて。

-作文って、結構苦手な方いますよね。

チャーリー:そうですよね。僕の場合、どういうふうに書くのかっていう「型」が示されないのが嫌いだったんですよ。僕、なにかをやるときに「型」が欲しいんですよね。

-「型」っていうのは?

チャーリー:いいかえると、法則性とか構造っていうのかな。だから作文以外も、歴史とか地理とか、そういう法則性が見出せないものは、自分にとってはあまり惹かれなくて。勉強する気にならなかったです。

-「『型』にはめられた方が楽」、みたいな感覚ですか?

チャーリー:うーん、というより、「『型』を自分でつくりだしたい」っていう感覚ですね。

僕、文章が苦手な一方で、数学がすごく好きだったんです。数学は、先人たちが築いてきた公式があるじゃないですか。公式ってある意味「型」ですよね。公式は、一度証明されたら簡単には覆らない。そういう「型」と出会うと、感動するんですよね。

-公式を見て感動する…ってどんな感覚なんでしょう?

チャーリー:今でも覚えてるのは、小学生の時に、僕と同じで数学が好きだった兄から「複素数」のことを教えてもらったときのことですね。

-えーっと、すみません数学にうとくて…「複素数」っていうのは?

チャーリー:まずは虚数について、英語で「 imaginary number」、つまり「想像上の数」 っていうんですけど、2乗したときに0未満の実数になる数のことです。そんな数は、現実には存在しないんですよ。だけど、それをそういったものが「存在するんだ」と考えると、世界を理解できることがあるんですね。複素数は、ふだん僕らもつかっている実数と虚数をくみあわせたものです。

-つまり、簡単に言ってしまえば、存在しないはずのものを存在すると考える、というわけですか。

チャーリー:はい。だから、「複素数」という考え方を取り入れると、世界の見え方がまったく変わる。今まで見てきた世界は実数の世界なわけですからね。僕は「複素数」の存在を知ったとき、「これまでなんて狭い世界を見てたんだ!」って、打ち砕かれたんですよね。そのときの感動って、いまだに僕のなかにのこっていて、色あせないんです。

-なるほど。「複素数」みたいな考え方や公式のような「型」は、世界の見え方を変えてくれる。だから、新しい「型」をつくりだすことは、世界の見え方をまったく変えてくれるわけですね。そう考えると、「図解」をつくることは新しい世界の見え方をつくることでもあるのかもしれない。

チャーリー:おおげさにいったら、そうかもしれませんね。

 

ソーシャルセクターと関わりはじめて感じたジレンマ

-チャーリーさんの履歴を見ると、数学への興味から、そのまま「図解」の道に進んだわけではなかったですね。大学と大学院で建築を学んだのち、面白法人カヤックでディレクター職をつとめ、2013年に退職して、仲間達と「株式会社そろそろ」を設立した、とあります。

チャーリー:そうですね。もともとカヤックでウェブサイトやアプリの企画制作をしてましたけど、そういう「クリエイティブ」のスキルって、社会課題を解決する領域でこそ必要なんじゃないかって思ったんです。

チャーリー:会社を立ち上げるまでは、あまりソーシャルセクターと呼ばれる領域は関心がなかったんですよ。でも、たまたま一緒に会社を立ち上げたメンバーが、社会課題への意識が高い人たちだったこともあって、社会課題をクリエイティブで解決する事業に取り組むことにしました。

で、僕もソーシャルセクターの人たちと話すことが増えてたんですけど、ソーシャルセクターの方々がなにに困ってるかって言ったら、お金に困ってるんですよね。

-あぁ…僕もNPOに勤めた経験があったり、フリーランスになってからもソーシャルセクターに身を置いているので、わかります。

チャーリー:すごく大事な取り組みをやってるし、その思いに惹かれていい人たちが集まってきてる。だけど、お金がない…みたいな組織とたくさん出会って、「どれだけ社会にいいことでも、経済合理性がなければ活動が継続しづらい」っていうことを痛感したんです。だから、クリエイティブでソーシャルの領域を支援するだけじゃ足りないな、と。

いいことをやっている人たちが正当に評価されて、ちゃんとお金が得られて、その活動が持続性を持てるような状態にしたい。そのためにはビジネスのことをもっと学ばないといけないと考えて、ビジネススクールに通い始めたんです。

 

言葉では理解しづらいこともわかる、「図解」の可能性

チャーリー:ビジネススクールでは当然、課題が出るじゃないですか。文章でレポートを書いてくるみたいな。あれがしっくりこなくて。

-小学校のときから苦手だった作文のようなものですもんね。

チャーリー:はい。他のみんなはwordで書くんですけど、僕はそれがだめで。最初は頑張ったんですけど、次からは「もういいや、やりたいようにやろう」って開き直りました。講義を聞いたものを、図解して、スライドで提出するようになったんです。

-おお! そこで「図解」が出てくるんですね。

チャーリー:はい。それまでも、仕事で「図解」して考えたりはしてたんですけど、特別意識してたわけじゃなくて。でも、ビジネススクールで受けた会計の授業は、「図解」の可能性を感じたきっかけになりました。

それまで僕、会計にはうとかったんです。でも、授業をうけて図解でまとめてみたら、「会計の仕組み、めっちゃ面白いじゃん!」って、感動したんですよね。あれって「型」があるものなので。


チャーリー:でも、まわりの人は「会計の授業がすっごい苦手…」っていうんですよ。みんな大企業で活躍してる、めちゃくちゃ優秀な人たちですよ? そういう人が、「会計の授業はちょっと無理…」って言ってて。

そんな姿を見て、「こんなにおもしろいのに、もったいないな」と思ったんです。それで、会計の授業などを図解をしたものを、メーリスで送るようになって。

-それはめちゃくちゃありがたかっただろうなぁ。僕も会計は苦手なんですけど、近藤さんの著書『会計の地図』を見ると、図解によってその仕組みがスッと理解できました。

チャーリー:ありがとうございます。みなさんもそんなふうに、「すごくわかりやすい!」って喜んでくれたんですよ。そのときに、「図解」の可能性に気づきました。言葉では理解しづらくて、敬遠してしまうようなことでも、「図解」を通してわかりやすく、身近に感じてもらえることがあるんだって。

 

分断を乗り越えるための「共通言語」として、図解がある

-図解を通して、わかりにくいことが理解しやすくなる、っていうことは納得感があります。でも、チャーリーさんの「図解は共通言語」っていう言葉には、さらに深い意味合いが込められている気がしてるんです。

チャーリー:そうですね。現代って、社会全体としても、いろんなところで分断が起こっているじゃないですか。

-組織の中でもご近所付き合いでも、国家同士でも、宗教間でも、分断は絶えないですよね。

チャーリー:はい。白か黒かっていう二元論になりがちで、それぞれの意見を主張すればするほど、分断は深まっていく。その分断を乗り越えるためには、すごく丁寧なコミュニケーションが必要になるんですけど、それがすごく難しい。

僕は分断が深まってしまう理由のひとつが、異なる立場の人々同士で、コミュニケーションを横断する「共通言語」がないことだと思うんです。

-たとえば、ビジネスに取り組んでいる人と、社会課題解決に取り組んでいる人とで、話す言葉や前提が違ったりしますよね。

チャーリー:そうなんです。だから、立場の違う人同士が対話をするための「共通言語」が必要で。その「共通言語」となりうるのが、図解なんです。

-たとえば異なる宗教を持つ人や、別の国から来た人に対して「こわい」という感情を持つ人もいると思うんです。だけど、その人の文化や宗教について整理した図解があれば、「なるほど、そういうことなのか」と理解して、対話が生まれるかもしれませんね。

チャーリー:そうですね。これまではビジネスの領域での図解をやることが多かったですけど、図解を通してそういった社会的な分断を乗り越えることにも、今後は取り組んでいけたらいいな、と思います。

最近だと省庁と一緒に、なかなか一般の方にはわかりにくい「政策」の図解をやっていたりします。あとは、まちづくりなどの活動で特定の事業やプロジェクトにおけるステークホルダーとその役割、共通目的などを可視化する「パーパスモデル」というフレームを開発していたり。そういった、これからのビジネスに求められる様々な領域でも、図解をつくって、活用していきたいですね。

 

履歴書も、自分でつくった型を入れていい

-最後に、Proff Magazineでみなさんに投げかけている質問を。チャーリーさんは「履歴書」についてどのように考えていますか?

チャーリー:そうだなぁ…これまで履歴書を書く機会がたくさんあったわけじゃないですけど、いわゆる履歴書って、ちょっと機械的ですよね。箇条書きで、ストーリーとか想いが入れられないというか。

人間が労働するロボットだと捉えれば、ああいうフォーマットが適切かも知れないけど…。そうじゃないとしたら、「あの形式がどれだけ必要なのかな?」とは思いますね。

-チャーリーさんがさっき「型をつくりたい」って言ってましたけど、履歴書は「型にはまる」ことを求めてくるというか。

チャーリー:そうですね。

-むしろ「型をつくっていいんだ」って発想を転換したら、それこそ自分のことを図解してもいいわけですよね。

チャーリー:いいですね。その方が書きやすい人もいるでしょうし。これから履歴書ももっと自由になって、図解で自分のことを表現する人も増えていったらおもしろいですね。

 

インタビューを終えて

「モノや概念が先にあるのではなく、言葉によってモノも概念も生まれる」と、スイスの言語学者・フェルディナン・ド・ソシュールは言いました。

おおざっぱに言ってしまえば、言葉によっては世界はつくられている–。だとしたら、チャーリーさんが取り組んでいる「共通言語」をつくる取り組みは、その都度あたらしい世界の見え方をつくっているのだともいえます。

もしみなさんが、自分のキャリアや世の中に閉塞感を感じているとしたら、図解という「共通言語」を通すことで、新しい世界の見え方がひらけてくるかもしれません。

(執筆・撮影:山中康司)

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