住まいを変えて、価値観を拡張する。 / リビタ 加藤陽介
#013

住まいを変えて、
価値観を拡張する。
リビタ 加藤陽介

「あなただけの履歴書を、つくってみてくれませんか?」
Proff Magazineでは、履歴書の自由なあり方を考えるために、さまざまな分野で活躍する方にそんなお願いをしてみることにしました。
今回お願いしたのは、株式会社リビタでシェア型賃貸住宅「シェアプレイス」のエリアマネージャーをつとめる加藤陽介さん。
新卒で地方に移住したものの、関わっていた事業が1年で終了してしまい、ある3人のキーパーソンに会うために東京に戻ってきたという加藤さん。シェア暮らしを通じて体感した“ 出会いをかたちにしていく生き方”とは?

偶然の出会いやつながりを、暮らしの中で生み出す

-今日はよろしくお願いします。ここ、りえんと多摩平はどのような場所なのでしょうか?

加藤陽介(以下、加藤):地域に親しまれてきた歴史ある団地をリノベーションした物件です。外観は団地みたいですけど、大学の国際寮や社会人が暮らすシェアハウスになっていて、同じ敷地内にはファミリーと高齢者向けの賃貸住宅もあります。近隣の人たちも利用できるシェア畑や、誰でも気軽に立ち寄れる食堂もあって、赤ちゃんからお年寄りまで世代を超えた交流が生まれている場所です。

JR中央線豊田駅徒歩8分にある、自然豊かな環境。

加藤:実は昔、自分も入居者として住んでいたことがあって。思い出深い場所なので、今日はここで人生を振り返ってみようと思います(笑)。

「かたらいのテラス」で、じっくりお話を伺いました。

-普段はどんな仕事をされているんですか?

加藤:いまは株式会社リビタでシェア型賃貸住宅、通称「シェアプレイス」のエリアマネージャーをしています。建物の修繕や不動産オーナーの対応など、主に業者さんとオーナーさんと現場スタッフの橋渡しのような役割を担っていて。エリアや物件を俯瞰で見ながら戦略を立てていくようなポジションにいます。

その前は、5〜6年ほどシェアプレイスの運営を担当していました。入居者さんのお困りごとを聞いたり、コミュニティを活性化させるためのイベントや地域のお祭りを企画したり、運営や管理面に長く関わってきました。

プライベートでも、自社の物件だけじゃなくて、二畳半箱型可動式シェアハウスなどさまざまな場所に住んだことがあって。シェア暮らしや地域に密着したまちづくりが、仕事でもありライフワークにもなっています。

 

愛着を持てる地元がなくなった青春時代

-なぜ住まいやまちづくりに興味を持つようになったのでしょうか?

加藤:父が建築やデザインの仕事をしていて、よく東京都府中市の実家に仕事関係の人が遊びに来ていたんですよ。一緒にキャンプに行ったり、建築家の方の家に遊びに行かせてもらったりもしていて。その頃はめずらしい屋上菜園や暖炉を目にして、みんなで家の中でわいわいするのって面白いなと思っていました。

加藤:でも、中学卒業と同時に千葉県佐倉市に引っ越すことになったんです。何も知らない土地でゼロからのスタートだったし、家から遠い高校を選んだこともあって、自分が住んでいる場所に家族以外のコミュニティが一つもなくて。当時は違和感だらけで、わざわざ府中のお祭りに遊びに行ったり、昔弟が通っていたサッカーのクラブチームのコーチをやったりしていましたね。

-思春期の引っ越しって、いろいろと感じるものがありそうですよね。

加藤:なかなか土地に愛着がわかないというか……自信を持って「ここが地元です」って言える場所がなくなってしまったのがコンプレックスでしたね。弟たちも同じ気持ちだったみたいで、何となく空気がぎくしゃくしたりもして。「居心地のよさって何だろう」とか、都会と田舎を比較して「自分にとってのローカルな居場所がほしいな」と考えるようになりました。

そういう流れの中で、大学では自分にとって馴染みのある建築学科を選び、人と地域に密着したまちづくりに携わってみようと思って、卒業後はインターン先だったNPOに就職したんです。新潟県妙高市に移住して、地域コーディネーターとしてイベントの企画や運営をしました。

東京の子どもたちを新潟に連れてきて、森の中でキャンプをしたことも。

加藤:授業で学んだことは建築だったけど、建築家として活躍して食べていける人って指折りしかいないので。「じゃあ何をする?」って考えたときに、やっぱり人と地域に密着したまちづくりをしようかなと。でも実は、いろいろな事情が重なって、1年でその事業が終わってしまって。

-社会人1年目にしてそんなことが……!

加藤:そうなんです。濃ゆい1年を過ごしたおかげで、新潟は第二の故郷のような場所になったし、NPOの代表も親身になって人生相談に乗ってくれました。周りの方々と話し合いをしながら、これからどうステップを踏んでいくかを一緒に考えてもらったときに、ある3人が自分にとって重要人物だということに気づいたんです。

 

出会いをかたちにしていく生き方のはじまり

-人生に影響を与えたキーパーソンが浮かび上がってきたんですね。

加藤:「日本仕事百貨」を運営するナカムラケンタさん、働き方研究家の西村佳哲さん、そしてデザインディレクターの萩原修さんです。この内の2人は建築学科のご出身なんですけど、いまは別の職業で活躍されていて。自分がNPOで働いていたときに、ナカムラさんと西村さんが出演されていた建築系ラジオを聴いたんですけど、テーマが「建築家をあきらめろ!」だったんですよ。

-建築家をあきらめろ、ですか。

加藤:さっきも話した通り、建築家って目指したくてもなかなかなれる職業じゃないので。本意じゃない就職をする人もたくさんいるし、自分は建築学科に入ったものの「建物をつくりたいわけじゃないのかも」とモヤモヤしていて、それが社会人になっても続いていたんですよね。

加藤:でも、身に付けた知識や建築的な思考はどんな業界や仕事でも活かせるはずで。「建築学科を卒業したけどいまは別の職業で活躍しているゲストが、学生と対話をしながらキャリアの新しい可能性を考える」というラジオの内容がすごく腹落ちしました。

建築家という職業はあきらめたけど、建築についてはあきらめていないというか……自分自身も「これでいいんだな」と改めて思えたんです。それから萩原さんも含めて、建築系ラジオの出演者やその周辺の人たちに興味を持ちはじめて。活動を追ったり著書を読んだりするなかで、西村さんの「夢をかたちにしていく生き方ではなく、出会いをかたちにしていく生き方」という言葉に心を動かされました。

-夢が叶わなかったり、行き先が分からなくなったりしても、人との出会いが自分をしかるべき場所に運んでくれる。

加藤:はい。そういうことで、何のあてもなかったんですけど、この3人に会うために東京にUターンすることを決めて。ナカムラさん、西村さん、萩原さんの事業に関われたらいいなと思って、まずはNPO時代の延長のようなアルバイトをしながら機会を伺うことにしました。

 

団地型シェアハウスの場の編集者として、地域のにぎわいをつくる

-東京に戻ってきて、3人にお会いできたのでしょうか?

加藤:お会いできました。でも、ナカムラさんのトークショーに行ったときに予想外のことが起きて。質疑応答の時間に、自分のことを知ってもらいたくて、これまでやってきたこととか考えていることを話させてもらったんです。そうしたら、他のイベント参加者の方が「加藤さんにご紹介したい人がいます」と声をかけてくれて。実は、いまではその方とお客様としてお付き合いさせていただいているんですけど。

で、その紹介してもらった相手というのが、いま勤めているリビタの先輩社員にあたる人だったんですよね。意気投合して可愛がっていただき、その後住まいながらシェアハウスという場所を編集するエディターという役割の人を募集する企画に誘ってもらって、ここりえんと多摩平で6ヶ月間暮らすことになりました。

-ナカムラさんに会うつもりが、気づいたらシェアハウスという場を編集する人になっていた。

加藤:そうなんです(笑)。自分の他にもエディターは5人いて、建築家や主婦、学生やフリーランスなど、様々な立場の人とイベント企画やコミュニティづくりを行って、日々の内容をブログで発信していました。

ウッドデッキでヨガ教室を開いたり、シェアハウスについてみんなで考えるミーティングを開催したり。地域の人たちと接点を持つために、自治会の夕涼みイベントを手伝って子供向けのワークショップを企画したり。

毎年恒例の地域のお祭り「多摩平の森 さくらまつり」。

加藤:東日本大震災の直後にオープンした物件だったので、「住んでいる人たちがこの場所でどういうことをしたいんだろう」「地域の人たちはどんなつながりを求めているんだろう」ということを考えながらヒアリングをして、にぎわいを生み出せるようにつとめました。

そうしているうちに、萩原さんが深く関わっている東京にしがわ大学の活動と、自分の活動が近づいていることにも気づいて。その後、これまでの活動を振返りながら、ひとり旅で訪れた中国福建省の山岳地域にある共同住宅「土楼」の空間や生活や人に触れて、「これから何をしたいか」が見えてきたような気がして、建設会社に再就職して経験を積んだ後に現在のリビタに入社したんです。

リビタ入社後、シェアプレイス調布多摩川でエディター企画を立ち上げ、活動を見守った。

加藤:特にやりたいことが明確にならないまま東京に戻ってきたし、キーパーソンの3人と仕事をご一緒できたわけではなかったけど、ちゃんと想いを発信していればご縁のある人が導いてくれるんだなって。一連の出来事を通して、「夢をかたちにしていく生き方ではなく、出会いをかたちにしていく生き方」という西村さんの言葉を、共感だけじゃなくて実感できましたね。

 

「住まいの変遷」が、人との対話を豊かにしてくれる

-さて、加藤さんが生きる上で大切にしてる価値観はありますか?

加藤:「住まいの変遷」が、人との対話を豊かにすると思っているんです。シェアハウスでの暮らしを通して、学校とか職場とかじゃなくて、生活の場でもこんなに自分の内側が変化するんだなという驚きがあったので。

大人になると、関わる人とかコミュニティって、自分の興味関心の範囲で選ぶから狭くなりがちじゃないですか。学校とか職場でも自分と近い人と接しがちで。でも、あえていろんな人が暮らしている場所に住まいを置くと、自分と異なる人に触れることができて、人生が豊かになると思うんです。自分も、絵描きの夢を追いかけてがんばっている人とか、大企業に勤めているけど仕事を重くとらえずに三味線を演奏しながら全国をまわっている人とか、大学生やお年寄りや自治会の方とか、いろんな価値観を持つ人との暮らしを通じてかなり刺激を受けましたね。

りえんと多摩平時代のシェアメイトたちとの日常風景。

-職歴と同じくらい、住まいの履歴もご自身のことを伝える上で大事になりそうですね。

加藤:そうなんです。人と対話をする上で大事になるのって、すごくプライベートなこととか、バックボーンだと思うんですよ。なので今回はプロフに「住まいの変遷」という項目を作りました。

企業の面接で直接アピールできる材料にはならなくても、自分を知ってもらうことを目的にするとしたら、学歴や職歴や持っている資格よりも、分かち合える部分がたくさんあるんじゃないかなって。

住んでいた場所が同じというだけですごく盛り上がるし、自分はふるさと出産で生まれたので1歳まで岡山県倉敷市に住んでいたんですけど、しばらくは岡山が地元だという感覚があった。こういう話も、同じようにふるさと出産で生まれた人だと共感してもらえるし、親近感がわくんですよ。

-確かに、仕事の話をするよりもすぐに打ち解けられますよね。

加藤:佐倉への引っ越しは苦い思い出だったけど、大学の友だちにその話をしたら、Bump of chikenのファンだったみたいで。「佐倉ってバンプの出身地じゃん!羨ましい、行きたい!」って言われて、それまであまり聴いてなかったバンプの曲を聴くようになったりとか(笑)。縁のある土地の話をすることで、自分が知らない情報が入ってくるし、「相手にとってこれは価値があることなんだな」っていう新たな発見があるのもいいですよね。

-ちなみに加藤さんは、どんなエピソードを話すことが多いのですか?

加藤:引っ越しが多かったので、その土地にいた面白い人の話をします。新潟で出会った、カマキリの卵から気象を観測するカマキリ博士とか、熊に襲われて顔を半分持っていかれたおじさんとか。これだけでいくらでも時間が経っちゃうんですけど(笑)、印象に残っている人のエピソードを話します。

自分は地域をあまり観光地としてとらえていなくて。その場で生活している人たちに関心があって、出会いを大切にしているので、そういう人好きな部分も伝わったらいいなと思います。

>加藤さんのプロフはこちら

 

不動産の常識を変えながら、居心地のいい場所をつくる

-最後に、これから取り組みたいことを教えてください。

加藤:自分とリビタの人たちの目線が近しいので、みんなで刺激を与え合いながら不動産の常識を変えていきたいと思っています。あとは、住まいというこれまでの経験を活かして、最近浅草エリアにできた「KAIKA TOKYO -THE SHARE HOTELS-」のような地域に根ざしたホテルや商業施設などの運営にも携わってみたいです。

-シェアハウスで培ったノウハウが、シェアスペースの運営に活かされているのですね。

加藤:そうなんです。やっぱり運営とか現場が好きなので、そういう意味では他の業態にも興味がありますね。

最後に、これはプライベートな活動における妄想ですけど、これまで関わってきた人たちと一緒に拠点をつくってみたいかな。地方で古民家をリノベーションしてお店をやるとか、ゲストハウスを運営するとか。人と人、人と場所のマッチングを生み出したいですね。

新潟の農村で将来について悩んでいた頃、キーパーソンの3人を軸にして行動を起こせたことで、その後自分が信じられる活動や仕事につながっていったので。原点回帰というか、また自分自身もあの頃みたいに変わっていかなきゃいけないと思うし、周りの人たちの生き方を変えるきっかけになれたら嬉しいなと。

刺激が多い都会よりも、地方の狭いコミュニティの中で生まれたマッチングの方が、エネルギーが爆発して面白くなると思うので。そういうことも考えながら、いまの仕事を続けていきたいと思っています。

(執筆・撮影:馬場澄礼

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